その日の夜は、馬鹿らしくて笑ってしまうような家族団欒だった。

帰宅した、一也に、私と同じように俊治が挨拶をして、尚子が腕を絡める。私は込み上げる吐き気をビーフシチューで流し込む。

「俊治くん、一杯どうぞ」

「一也さんも」

夫達が酒を注ぎあいながら、互いの仕事の話を始める。見れば、尚子の顔は笑っているが、目は笑ってない。

尚子は、いつも自分が中心でないと気が済まないのだ。いつだって、自分だけを見てほしくて、おやつをねだりながら、年中欲情している雌犬と一緒だ。


尚子は2人の会話に相槌を打ち、聞き上手の妻を演じながら、すぐに自分の話題へとすり替えていく。

「ねぇ、一也さんも俊治さんも手を使う職業だからかしら?手がとっても綺麗だわ」

「そうかな?俺はメスを握るからね、誤って切った痕もあるしね」

「僕も油はねとかで、綺麗とは思えないけどな?」

尚子は、何気なく2人の掌に触れていく。今日施したばかりのネイルが見えるように。

「尚子こそ、白くて細い指に映える素敵なネイルだね。こんなに指先まで美しい妻を持って、俺は幸せだよ」

「本当、凄く綺麗だ。僕も尚子さんのように誰もが羨むような人の夫になれて幸せだよ」

「2人ともありがとう。私も一也さんと俊治の妻であるのことが、幸せすぎて泣けてきちゃうわ」 

「こらこら、尚子に泣かれたら困るな」

親達の笑い声を聞きながら、私も唇を無理やり引き上げる。偽りの笑顔を貼り付けたまま、私は、ビーフシチューをひたすらスプーンで掬った。