「ただいま」

「沙羅、おかえりなさい」

こんなに明るい声で尚子が、玄関先で私を出迎える等いつぶりだろうか?

私は嫌な予感がしたまま、リビングの扉を開けた。

「沙羅ちゃん、初めまして」

あまりの驚きに声が出ない。

その男は、いつも、尚子がつけている花柄のエプロンを身につけ、鍋をゆっくり木杓子でかき混ぜている。鼻先にビーフシチューの良い香りが纏わりついた。

「沙羅、紹介するわね、新しい2番目のパパとなる、俊治(しゅんじ)さんよ」

男は、コンロの火を止めて、尚子の隣に腰掛けた。そして、黒髪の短髪に綺麗な奥二重を細めると、ホワイトニングされた白い歯でにこりと笑った。

「沙羅ちゃん、今日から、尚子さんの2番目の夫であり、沙羅ちゃんのお父さんになる、鷲木俊治(わしきしゅんじ)です。宜しくね」

「沙羅ちゃん、俊治は、都内のレストランでシェフ兼社長をしてるのよ。ビーフシチューがとても人気なのよね」 

私が返事をする前に、尚子が、俊治に腕を絡めながら、甘えたような声を出した。

「尚子さん、恥ずかしいよ」

「いいじゃない、こんなに素敵な貴方とこうして、出会えて、夫婦になれて幸せなの」

「嬉しいな、僕もだよ」

尚子は、俊治の頬にキスを落とした。

「沙羅ちゃん、今日はビーフシチューだからね。僕が目利きして、仕入れた牛を自ら解体した牛肉を使ってるんだ。楽しみにしててね」