高校に到着すれば、此処は、男子校かと思うほどに、クラスの生徒30人のうち、女子は私1人だけだ。

教室の扉を開ければ、隣に住む、神田隆介(かんだりゅうすけ)が私に話しかけてきた。

「沙羅、おはよ。一妻多夫制解禁のニュース見た?」

隆介は、私の鞄を受け取ると、当たり前のように、鞄から教科書を取り出して、私の机に入れていく。

「見たわ、ママが言ってたけど、隆介のお母さんも申し込みしたんでしょ?」

「あぁ、うちは、女の子欲しがってるからね」

「成程ね」

お隣に住む隆介は、5人兄弟だ。そして子供達の性別は、全員男だ。

(新しい夫となら、女の子が生まれるかもって期待してるのね)

女の子が生まれた家庭には、政府から1000万円という特別給付金が貰える。それだけ、性別が女であるということは、この世では、何よりも価値があるのだ。

「うちも朝からママが嬉しそうに解禁ニュース見てたわ。てゆうか、16歳も離れた兄弟作ろうとしてるとか、勘弁してよって話」

「そうだな。俺も自分の部屋どころか居場所すら、なくなりそうだわ」

隆介は、肩をすくめた。

「お気の毒様」

私が席に着くと、別の男の子が、カットコーム片手に、寝起きのまま、手櫛だけしかしていない、私の長い黒髪を器用に編み込んでいく。

そして、無言で、両手を机の上に置けば、前の席の男の子が振り返って、ネイルケアを始める。

隆介は、私が目を閉じると、いつものように、ポシェットから、化粧道具を取り出して、私の顔に色をつけていく。

「アイシャドウ何色にする?」

「目元は、オレンジ系で、唇とチークは、ピンク色、上品にみえるやつにして」

隆介が、微笑みながら頷いた。


そう、これが今の世の中では、当たり前の日常。男達は、数少ない女をとても大切にしていて、気に入られる為に必死だ。