「勿論。新しいパパがきたら教えて」

尚子に媚びるような、偽りの笑顔も板についてきた。

「有難う、沙羅」

「沙羅は物分かりが良くて助かるよ。あ、今日も脈を、測らせておくれ」

一也は、私の手首に2本指を重ねて、暫くしてから、そっと指先を離す。内科医の一也は、毎日、私の顔色や脈、食欲などから健康状態が良好であるか確認してくれる優しい父親だ。

「うん、健康だ」

「ありがとう、パパ」

「あまり沙羅を甘やかしてはダメよ、一也さん」

どことなくワントーン低い尚子の声が響く。

「ははは、愛する娘だからね」
 

尚子は、高校卒業した春休みに、風邪を引いて受診した病院で一也と知り合い、二人は授かり婚をした。私を19歳で出産した尚子は、今年35歳になるが、娘の私から見ても、女として充分に美しい。

尚子は、我が子の前でも気にせず、一也の後ろから抱きつくと、頬にキスを落とした。そして、卓也もスタイルの良い尚子の腰に手を回して、するりと尻を撫でる。

「ご馳走様でした、行ってきます」

私は、食器を下げると、セーラー服のリボンをリビングの片隅の姿見で整えてから玄関扉を閉めた。