この時、私は、知らなかった。一妻多夫制は、少子化対策に歯止めがかかることなく、やがて数年で廃止されることを。

夫が複数いることで、一時的に子宝に恵まれる可能性が高まるとしても、結局、子を宿せる子宮は、一つしかないのだ。

当然だが、この制度解禁により、出生率は僅かに上がったが、結局、政府公認の制度としての結果はほとんど残せなかった。

大学を卒業して、社会人四年目となり、結婚適齢期を迎えた私は、いつものように、会社の帰り道、スクランブル交差点で信号待ちをしていた。

今日は、皆既月食ということもあり、皆が空を見上げている。その時、周りから聞こえる驚嘆の声と共に見上げた、ビルの大型電光掲示板に、私は、一瞬で釘付けになった。

一夫多妻制(いっぷたさいせい)?解禁?……」

……この男女は、夫1人、妻1人で無ければならないという項目を撤廃し、夫1人に対して妻は3人まで共に生活をする共同体として認める事とする。また生まれた子供は……。

男性の未婚率は、95%に登る予定だか、この制度解禁により、出生率は、前年比の3倍になる予想で、家庭内における、出生率は、3.12%という研究データも……。

「何よっ、この制度!」

この制度解禁により、ハイスペックで容姿端麗、頭脳明晰の国民ピラミッドの頂点に位置付けされる男の妻となる為に、女達は、こぞって、着飾り、へつらい、夫に下僕のように媚びて生きていくのだろう。

三人いる妻の中で、一番大切にされる為に。

一番愛される様に。

今までの、世の中の男女の関係が、あっという間にひっくり返る。

血が滲むほどにキツく拳を握りしめながら、睨み上げた夜空には、まるで尚子が、薄く笑っているかのように不気味な色を湛えた、赤い月が私を見下ろしていた。