そして、1か月程経った冬休み。その日は朝から雪が降っていた。

「沙羅、今日は同窓会で帰らないから。パパ達に言っておいて」

キツい香水の匂いに、厚塗りの化粧、派手な下着。顔に出そうになるのを堪えて、私は、にこりと笑った。

ママが玄関の扉を閉めてすぐに、私は後を追う。

(うち)はマンションの8階だが、ママは、男の為に着飾った自分をマンション住人に見られたくないのか、いつも人けのない吹きさらしの非常階段を使うのだ。

見れば、鼻歌混じりにまさに階段を降りようとしている尚子が見える。私は、通路に積もった雪に足を取られないように注意しながら、両手で尚子の背中を、力一杯押した。


「バイバイ。大嫌いだったよ、ママ」

もはや、視点が定まらない尚子を見下ろしながら、私はすぐに刑事の真澄に電話をかけた。


尚子は、その姿を最後に忽然と姿を消した。