慣れない異国の地で、悪戦苦闘しながらも、夢を追いかけていた私は、日々充実していたが、来斗の居ない初めての夏、どうしても来斗に会いたくて、その想いを断ち切るためにこの葉書を描いた。

そっと裏返せば、短く一行だけ、私の直筆の文字が並んでいる。

『もう二度と来斗に恋はしない。ありがとう』

そう書かれている。 

「えぇ、フられちゃったけど彼女の夢をいつまでも応援したいって。自分は、いつまでも彼女の一番のファンだからって」

ゆっくりと落下した小さな水玉模様は、葉書の上に弾けて染み込んでいく。

和穂が、私の背中をそっと摩ってくれる。

「私、いつも間違えてしまうんです。夢よりも……来斗を選んでいたらっていつもどこかで思ってたんです。本当は……私も来斗を忘れた事なかった」

「その話……来斗君にしたことある?」

私は、(こぼ)れる涙をそのままに、小さく首を振った。

「もうすぐ、来斗君帰ってくるから。最後に話したらどう?」

私は、無理やり涙を引っ込めると和穂に笑ってみせた。

「もう、終わったことなので。来斗には、ご家族とお幸せにと、お伝えください。陸奥さんも本当に三ヶ月間有難う御座いました」

「南さん、本当にいいの?」

「はい。その代わり、この葉書貰って帰ります。それだけ来斗に伝えてください」

私は、そっと葉書を鞄に仕舞うと事務所を後にした。