進級して私は二年生になった。クラスは四組で、予想はしていたが久徳と同じであった。どうせ裏で何かしたに違いない。
クラスが一緒になったついでに吸血鬼事件について他のクラスメートに聞こえないように尋ねてみた。
「本当に解決する気があるのか」と「久徳が解決する理由はあるのか」の二つのことをだ。
すると、久徳は腕を組んで答えた。
「解決はする。平穏に暮らすためにこちらの世界にいるからな、俺たちの界隈で他の世界を荒らすのはいわば暗黙のタブーなんだ。だから、俺みたいな年長者は“マナーを知らない新参者”を躾けないといけない」
突然ファンタジーな話になって咄嗟に理解が追いつかない。少し考えて、つまり久徳は別の世界からやってきたということか、と脳内で話を整理をする。
正直のところ、私が思ってた以上に久徳はオカルトな存在なのだと知り、少し動揺している。だが、よくよく考えてみれば吸血鬼がこの世界の存在じゃないなんて当然かもしれない。
だんだんと非現実に順応し始めていることに嫌気が差した。
「まあ、安心するといい。次に事件があるとすれば、4月18日前後だ」
そこまで分かってるのであれば何とかしてくれるのだろうと私は安堵の息を吐くのであった。
それから一週間後の放課後、生徒会の集まりがあった。私を含め役員は6人いて、役割は会長・副会長・書記・会計・庶務が2人。
ちなみに私は庶務で、幼馴染の健人が副会長を務め、久徳は書記だ。そして、会長は武将みたいな剣道部主将で、会計はいけ好かないインテリメガネである。
あとはもう一人の庶務だが、まるで中学生に見えるような童顔の男の子だ。明朗快活で、威厳のある会長に遅刻を怒鳴られても怖気づく様子もなくへらりと笑うようなやつだった。
「では、部活がある者以外は残ってアンケートの準備をしてください。ということで解散。僕は印刷してくるので少し待っていてください」
顧問の先生がそう言うと、健人は申し訳なさそうに残ったメンバーに頭を下げた。席に座ったままなのは、私と久徳ともう一人の庶務・阿久田だ。阿久田は陸上部だが今日は活動がないらしい。
ちなみに、先生が印刷してくると言っていたのは5月に行われる球技大会の種目のアンケートのことで、これからそれらをA5サイズに切っていかなければならない。
面倒極まりない作業である。
「私も帰りたい……」
顧問の先生を待つ間、私は思わず小さくぼやく。すると、向かいからも同様の声が聞こえてきた。
「あーくそめんどくせー。なあ、あんたらは頼まれた感じ?」
生徒会役員に、ということだろう。私はそうだと答え、久徳は白々しく首を縦に振っていた。
「まあ、そうだよなー。幽霊怖くて立候補いないとかマジ意味わかんねえ。もはやウケる」
事情を知っているだけに私は苦笑いする。十年前に出会った女児との出会いを作るために仕組んだなんて笑えないけどね。
というか、わざわざ生徒会で一緒になる必要なかったと思う。ほとんど面識がないうちに不法侵入してくるなら! と横目で久徳を睨む。
反応はあまりないので、今日は心が読めない日かもしれない。
「俺なんてさー、校長室前の花瓶が割れてたのを俺のせいにされて、それの罪滅ぼしに生徒会活動しろとか言われて入ったんだぜ、俺じゃねえしよ」
ぶつぶつと悪態をつく阿久田の話を「そう」と大した関心もなく聞き流した。
それからクラスの枚数ごとに分けるところまでやり、作業は終了した。阿久田は終わったら「やっとだぜ、お疲れー!」と早々と帰っていった。残った私たちもさっさと教室を出る。
帰路を歩いているときに久徳はこんなことを言い出した。
「阿久田は人間じゃない。まだ正体は掴めていないが」
桜舞う並木道にふさわしくない不穏な話だ。吸血鬼一人だけで十分なのにまだ近くに人間じゃない存在がいると思うと、うんざりする。今年は厄年に決まっている。
「それで、阿久田は危険なの?」
「いや、術を使えるような気配がない。だから、何故人間界にいるのかが不明で警戒している。それに、どうしてだか吸血鬼ではないのに、仄かにその気配も感じる」
顎に手を当てて考える久徳の真剣な姿は、あまり見ない顔つきで私は思わず目を奪われてしまった。顔だけは良いからずるいよな、と思う。別にドキッとなんかしてないけど。
ふいっと目を逸らしたと同時に「あまり不用意に近づくな」と言葉を投げかけられて「分かってる」とぶっきらぼうに返事した。
そもそも、自ら非現実に近づきたくはないのだ。
クラスが一緒になったついでに吸血鬼事件について他のクラスメートに聞こえないように尋ねてみた。
「本当に解決する気があるのか」と「久徳が解決する理由はあるのか」の二つのことをだ。
すると、久徳は腕を組んで答えた。
「解決はする。平穏に暮らすためにこちらの世界にいるからな、俺たちの界隈で他の世界を荒らすのはいわば暗黙のタブーなんだ。だから、俺みたいな年長者は“マナーを知らない新参者”を躾けないといけない」
突然ファンタジーな話になって咄嗟に理解が追いつかない。少し考えて、つまり久徳は別の世界からやってきたということか、と脳内で話を整理をする。
正直のところ、私が思ってた以上に久徳はオカルトな存在なのだと知り、少し動揺している。だが、よくよく考えてみれば吸血鬼がこの世界の存在じゃないなんて当然かもしれない。
だんだんと非現実に順応し始めていることに嫌気が差した。
「まあ、安心するといい。次に事件があるとすれば、4月18日前後だ」
そこまで分かってるのであれば何とかしてくれるのだろうと私は安堵の息を吐くのであった。
それから一週間後の放課後、生徒会の集まりがあった。私を含め役員は6人いて、役割は会長・副会長・書記・会計・庶務が2人。
ちなみに私は庶務で、幼馴染の健人が副会長を務め、久徳は書記だ。そして、会長は武将みたいな剣道部主将で、会計はいけ好かないインテリメガネである。
あとはもう一人の庶務だが、まるで中学生に見えるような童顔の男の子だ。明朗快活で、威厳のある会長に遅刻を怒鳴られても怖気づく様子もなくへらりと笑うようなやつだった。
「では、部活がある者以外は残ってアンケートの準備をしてください。ということで解散。僕は印刷してくるので少し待っていてください」
顧問の先生がそう言うと、健人は申し訳なさそうに残ったメンバーに頭を下げた。席に座ったままなのは、私と久徳ともう一人の庶務・阿久田だ。阿久田は陸上部だが今日は活動がないらしい。
ちなみに、先生が印刷してくると言っていたのは5月に行われる球技大会の種目のアンケートのことで、これからそれらをA5サイズに切っていかなければならない。
面倒極まりない作業である。
「私も帰りたい……」
顧問の先生を待つ間、私は思わず小さくぼやく。すると、向かいからも同様の声が聞こえてきた。
「あーくそめんどくせー。なあ、あんたらは頼まれた感じ?」
生徒会役員に、ということだろう。私はそうだと答え、久徳は白々しく首を縦に振っていた。
「まあ、そうだよなー。幽霊怖くて立候補いないとかマジ意味わかんねえ。もはやウケる」
事情を知っているだけに私は苦笑いする。十年前に出会った女児との出会いを作るために仕組んだなんて笑えないけどね。
というか、わざわざ生徒会で一緒になる必要なかったと思う。ほとんど面識がないうちに不法侵入してくるなら! と横目で久徳を睨む。
反応はあまりないので、今日は心が読めない日かもしれない。
「俺なんてさー、校長室前の花瓶が割れてたのを俺のせいにされて、それの罪滅ぼしに生徒会活動しろとか言われて入ったんだぜ、俺じゃねえしよ」
ぶつぶつと悪態をつく阿久田の話を「そう」と大した関心もなく聞き流した。
それからクラスの枚数ごとに分けるところまでやり、作業は終了した。阿久田は終わったら「やっとだぜ、お疲れー!」と早々と帰っていった。残った私たちもさっさと教室を出る。
帰路を歩いているときに久徳はこんなことを言い出した。
「阿久田は人間じゃない。まだ正体は掴めていないが」
桜舞う並木道にふさわしくない不穏な話だ。吸血鬼一人だけで十分なのにまだ近くに人間じゃない存在がいると思うと、うんざりする。今年は厄年に決まっている。
「それで、阿久田は危険なの?」
「いや、術を使えるような気配がない。だから、何故人間界にいるのかが不明で警戒している。それに、どうしてだか吸血鬼ではないのに、仄かにその気配も感じる」
顎に手を当てて考える久徳の真剣な姿は、あまり見ない顔つきで私は思わず目を奪われてしまった。顔だけは良いからずるいよな、と思う。別にドキッとなんかしてないけど。
ふいっと目を逸らしたと同時に「あまり不用意に近づくな」と言葉を投げかけられて「分かってる」とぶっきらぼうに返事した。
そもそも、自ら非現実に近づきたくはないのだ。