怪我をした。一ヵ月前のことだ。自転車で下校中、脇見運転の軽トラックに衝突されたのである。

今後はリハビリ次第で日常生活に支障のないところまで回復することはできるが、三ヵ月ほど入院する必要があると言われた。四月から大学生になるというのに、僕が退院する頃にはゴールデンウィークすら終わっている。

仕方ないか、仕方ないよな。そうなんだ、わかってはいるんだけどさ。同級生は皆新生活を始めているのにな、と毎日やるせない気持ちになるのだった。


保呂田は三年生の時に同じクラスで、隣の席だった。明るくフレンドリーな保呂田。僕は元々コミュニケーションが得意なわけではなかったけれど、保呂田と話すのは楽だった。可もなく不可もない距離感に、心地よさすら覚えていた。

僕が怪我をしたのは卒業式の二日前のことだったので、クラスメイトには僕の情報が知らされていたみたいだ。いつも行動を共にしていた友達から心配のLINEが届く中、保呂田だけが電話をかけてきた。


《ニート予備軍、羨ましい。いいなぁ、関畑》


いやそれライン越えだろと突っ込みたくなる台詞で保呂田の電話は始まる。最初にかかってきた時は驚いたけれど、おかげで重い空気にならずに会話ができている。頻度は二、三日に一回。保呂田がどんな気持ちでかけてきているかは見当もつかないが、少なくとも僕は保呂田の声に救われていたりもするのだった。

保呂田が僕につけた役職はネタではあるものの、本当にその通りなので否定する余地はなかった。

保呂田は四月から就職をするらしい。詳しくは聞かなかったけれど、家庭が複雑だと言っていた。進学したかったけどうちは無理なんだ。無理矢理笑う保呂田に、僕は何も言えなかった。



《働きたくないなぁ。もうすぐ四月だってさ、どうしよう関畑》
「どうしような、ホント」
《手取り十四万でどう生活しろと?》
「大学生活二ヵ月遅れでどう友達作れと?」
《あーあ、無理無理、やだな。死にたいかも、いやウソ、ちょっとホント》
「ちょっとな、うん」


十八歳の春休み。人生まだまだこれからだっていうのに、電話でこんな話をしているなんておかしな話だな。


なぁ保呂田、本当にさ、僕等変なところで似てるよな。


《関畑は顔がいいからさ、きっと大丈夫だよ》
「保呂田も可愛……、顔が良いから大丈夫だろ。可愛がってもらえるよ」
《えもしかして今、可愛いって言いかけた?》
「都合よく聞き間違えないでくれるかな」
《ツンツンしたって良いことないぞぉ》
「してねーよ」


お先真っ暗、十八歳。

僕と保呂田の関係だけは、どうか変わらないでほしいと願う春。





完.