嵐のような時間が終わると、俺はろくに手当てもされないまま自室に閉じ込められてしまう。
あれでも一応、世間体を気にする母親だから、怪我を負った俺が外へ飛び出し、助けを求めないよう目を光らせている。
その証拠に、どんなに暴力を振ろうと顔にだけは手を出さない。通報されないための予防線として。
だったら最初から、手をあげるなって話なんだけど。めんどくせえ親だ。
「いててて。せめて冷やさせろってんだ。ばかみたいに、アイロンを当てやがって」
赤く腫れあがった右の腕は、可哀想なことに皮がべろっと剥けている。
あーあ、また痕になる。俺の体にある綺麗な皮膚なんて、もう顔くらいしか残ってねーんじゃねえの?
「にっ、にいさま……ごめんなざい」
一緒に部屋に閉じ込められた那智が、せんべいみたいな敷布団の上で泣きじゃくっている。
十歳の那智には、よほどショックな光景だったようだ。俺の火傷を見ては、自分を責めている。
ちなみに母親が暴力を振ってきた理由は、なんでも財布にしていた彼氏さんに連絡を絶たれたからという、やっぱりくだらないものだった。
家にいた那智でストレスを発散しようとしたんだろう。ただの災難じゃねーか。
ぐずぐずに泣いている那智に苦笑いを零し、俺は弟の頭を撫でる。
「那智に目立った怪我がないなら、兄さまはそれでいいんだ。ごめんな。もう少し早く帰って来れたら良かったんだけど」
ちがうちがう。那智が首を横に振った。兄さまは何も悪くないと嗚咽を漏らして、しゃくり上げている。
「お、おれが……ひとりで受け止められなかったのが悪いんです。もう、小学四年生なのに。お母さんの罰っ、いつも兄さまが受けて。おれの、おれのせいで」
がたがたと震える那智は頭を抱えてヒステリック気味に喚いた。
自分の失態で父親に見捨てられる。
自分の失態で母親を怒らせてしまう。
自分の失態で兄を傷付けてしまう。
ああ、自分のせいで、自分のせいで。
――お前のせいで。
それが、那智に暴力を振るう母親の口癖だった。
物心がついた時からぶつけられている暴言は、那智の中で刷り込みとして根付いている。
だから那智は責める。
何かあると、すぐに自分のせいだと自責して、狂ったように自分を追い詰める。今も俺の怪我を自分のせいだと責めていた。