【2】



「いいか、那智。兄さまが来るまで、この兄ちゃんとおとなしく部屋にいるんだ。大丈夫、ちゃんと迎えに来るから」


 おれが六年生になった、夏休みの初日。
 いつもと違う朝を迎えたおれは、大きな不安を抱いていた。

 夏休みといえば小学生にとって嬉しいお休みだけど、おれ達兄弟にとって憂鬱でしかない時期。

 朝から晩まで家にいるということは、お母さんに虐められる時間が増えるということ。
 学校に行っている間は、少なくともお母さんの目がない。お友達の変な目はあるけど、手をあげられよりかはずっとマシだ。

 だから今年も、夏休みが来ると悲しくて、怖くて、苦しくて、涙が出そうになった。
 一ヶ月以上も、一日中お母さんに虐められる時間があるんだから。

 だけど、今年の夏休みは違った。

「那智。起きろ。出掛けるぞ」

 朝六時半に起こされたおれは、寝ぼけたまま着替えを済ませ、兄さまと公園へ向かった。
 てっきり、お母さんが虐めてくる前に外へ連れ出してくれたんだと思ったんだけど、目的地に着いてびっくり。

「よお、治樹。そいつがお前の弟か?」

 知らないお兄さん達がバイクに乗って、兄さまを待っていた。
 しかも髪の色が赤とか、青とか、黄色とかあって変。信号機みたいな色をしている。ぜったい怖いお兄さんだ。そうだ。そうに違いない。

 虐められないように兄さまの後ろに隠れると、お兄さん達に笑われた。
 ばかにした笑いじゃないことだけは分かったけど、でも、うん……怖い。兄さまのお友達なのかな? 訳が分からない。

「お前の弟に見せなくていいの? これから始まるショーを」

「弟に見せる価値もねーよ。刺激があり過ぎて、怖い思い出にされても困るしな」

 兄さまはお兄さん達と話して、しかもその一人におれをあずけると言った。
 絶対に弟には手を出すなよ、と釘を刺して。