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ハラハラと舞い散る桃色の花弁。岬は「満開だね」と翳すように手を伸ばす。試みて五回目。やっとのことで収めた欠片を、心底嬉しそうに見つめている。


「見頃だからな」


厘は羽織のなかで腕を組み、彼女の背を見守っていた。正直、気が気ではなかった。すべての想いを伝えるのが今日である、と決意を蒸し返せば、体を巡る糸が強く張った。それに——


「桜なんか見て、何が楽しいんだよ」


何故か庵も同行している。隣で文句を垂れながら、訝しげに眉を寄せている。岬が誘ったことには違いないだろうが、少しも空気を読めないのか、こいつは。厘は辟易した。


せっかく人気(ひとけ)のない、穴場のロケーションを用意したというのに。


「なんだよ」

「いいや。なんでもない」


厘は視線を背けるついでに見上げる。太い根を大地に下ろした桜の木と、舞い散る花弁。そして思い伏せる。まるでお前は岬のようだ、と。


控えめな花弁の色も、咲いてはすぐに散っていく脆さも、岬そのものだ。掴めそうで掴めない、この距離感も。


「おい岬。腹が減った」


庵ははらりと降る桜を退け、のらりくらりとそう放つ。

一見、花より団子とも取れる台詞には、おそらく裏がある。十中八九、敵対心があるのだろう。佇む季節も色も似通っているのに、“日本の花” としてスポットライトを浴びるのは、いつでもこの桜であるからだ。


従って、今回の不躾は特例、お咎めなしとした。