「誰かサイエンス五輪(オリンピック)に出たい人いない?」
 私はそっと手を挙げる。本当は数学系の大会にでたかったが、そっちは人数が集まりそうもないと先生が言っていた。まぁ、サイエンス五輪の方もなかなか人が集まらなかったが、なんとか男子4人・女子4人の計8人でチームを組めることになった。

 「詩月(しづき)、なんか昼休みに代表者3人来いっていうから一緒に行こ。」
 おいおい、マジですか。私は、代表者には向いてないよ。
 「彩空(さら)、まぁいいよ。けど、あと1人は誰?」
 「(すい)が行くって。」
 「了解。」

 やばい。やばい、やばい、やばい、やばい。時間が、ない。
 「彩空、彗くん、行くよ。」

 「少し遅れてしまってすみません。」
 「大丈夫ですよ。大会概要が書いてある紙を渡したかっただけですから。」
 怒られなくてよかった。サイエンス五輪まであと1ヶ月。初めてのことで右も左も分からないから、早めに内容を教えてもらえるのは嬉しい。サイエンス五輪とは、何をするのだろうか。

サイエンス五輪:理科4科目に数学・情報の筆記試験と実技テストを行う。

 「すみません、実技テストってなんですか。」
 「簡単にいうと、工作の試験だよ。毎年お題が違うんだけど、今年は…震央を求める問題だね。」
 震央を求める問題。これならいけるかもしれない。地学の授業でやった。

 大会概要の書いてある紙をもらってから、はや2週間がたった。
 「詩月さん、そろそろ準備しないとやばくないですか。」
 「彗くん、今まさに私も同じこと思ってたよ。」

 みんなで話し合った結果、1人1教科勉強して、実技の対策は比較的時間に余裕のある私と彩空と彗くんでやることになった。

 「ねぇ彩空、どこで問題解く練習する?放課後は教室使えないし。」
 「じゃあ、地学室でやれば?最近天文部、毎日活動あって空いてるから。」
 「彗くん、いいの?」


 結果から言えば、サイエンス五輪は全然ダメだった。問題が難しすぎた。けれど、毎日地学室に通ったことで桜庭先生と仲良くなれた。

 この辺りからだ。私が桜庭先生を推し始めたのは。

 サイエンス五輪を通じて彗と仲良くなったことで、桜庭先生について多くの情報を得ることができた。
 バスケを見るのが好きなこと、推しの宇宙飛行士がいること。そして何より、前職がお天気お姉さんであること。
 しかし、それと同時に悔しくもなった。彗は、私が知らない桜庭先生をたくさん見てきていた。
 先生が作ったお弁当の写真を見たり、先生がズボンを履いている姿を見たり<<先生は毎日、スカートを履いている>>、一泊の研究会に一緒に行ったりなど。極め付けは、寝ている先生を見ていることだ。前世にどんな徳を積んだら、寝顔を見られるのだろうか。そんなの、絶対可愛いに決まっている。