はなのー
バンッ。 バンッ。
道場に響き渡る、畳を叩く音。
私は、カルタ部に所属している。私の学校は競技カルタの強豪校だが、1つ1つの句の意味を大切にしている。百首全ての意味を答えられなければ、試合にも出させてもらえないほどだ。大変だが、私はそんな雰囲気が好きだった。
「こんにちは。」
不意に、部長が挨拶をした。皆、それに続いて挨拶をする。よく見ると、入り口のところに桜庭先生が立っていた。私たちの顧問は、少しハゲでぽっちゃりなおじさんだ。うちの部の誰かに用事があってきたのだろうか。
「なんか今日、赤石先生お休みらしいよ。その代わりに桜庭先生が様子を見に来たみたい。」
友達が教えてくれた。まぁどうせ、誰かがいてもいなくてもなんら変わりはない。練習でも本気を出す。それが私のポリシーだ。
「んじゃ、次の試合始めますか。」
ー衣かたしき ひとりかも寝む
よのなかよー
バンッ。
「ありがとうございました。」
よし。今日は少し調子がいい。今戦ったのは1つ年上の先輩だが、あまり札を取られずに勝てた。
「こんにちは。さっきの試合すごかったね。カルタのことはあまり分からないけど、圧勝だったじゃん。」
道場の隅で水分補給をしていると、桜庭先生が話しかけてきた。隣に座ってもらおうと、急いで周りに散らかしていた札を寄せ集める。
「いえいえ。なんか今日の調子がいいだけですよ。いつもは私の方が叩き潰されます。」
「でも、噂は聞いているよ。”期待の新人エース”ってね。」
私は少し顔が熱くなるのを感じた。誰かに褒められたのが久しぶりだったからかもしれない。あるいは、それが桜庭先生だったから…。
「っあ。」
先生は突然声を上げる。先生の40代とは思えない綺麗な手が指す先には、1枚のカルタがあった。
「ねぇ、カルタ部の子って、確か全部の句の意味を言えるんだよね。この句はどんな意味なの?」
ー筑波嶺の 峰より落つる みなの川
恋ぞ積もりて 淵となりぬるー
この句は、平安時代に陽成院によって作られた句だ。たしか、のちにお后となる光孝天皇の娘、綏子内親王に当てたラブレターだったはず。
「筑波のいただきから流れ落ちてくる男女川が、最初は細々とした流れから次第に水かさを増して深い淵となるように、恋心も次第につのって今では淵のように深くなっている。今にも通ずるところのある、恋の句ですね。」
バンッ。 バンッ。
道場に響き渡る、畳を叩く音。
私は、カルタ部に所属している。私の学校は競技カルタの強豪校だが、1つ1つの句の意味を大切にしている。百首全ての意味を答えられなければ、試合にも出させてもらえないほどだ。大変だが、私はそんな雰囲気が好きだった。
「こんにちは。」
不意に、部長が挨拶をした。皆、それに続いて挨拶をする。よく見ると、入り口のところに桜庭先生が立っていた。私たちの顧問は、少しハゲでぽっちゃりなおじさんだ。うちの部の誰かに用事があってきたのだろうか。
「なんか今日、赤石先生お休みらしいよ。その代わりに桜庭先生が様子を見に来たみたい。」
友達が教えてくれた。まぁどうせ、誰かがいてもいなくてもなんら変わりはない。練習でも本気を出す。それが私のポリシーだ。
「んじゃ、次の試合始めますか。」
ー衣かたしき ひとりかも寝む
よのなかよー
バンッ。
「ありがとうございました。」
よし。今日は少し調子がいい。今戦ったのは1つ年上の先輩だが、あまり札を取られずに勝てた。
「こんにちは。さっきの試合すごかったね。カルタのことはあまり分からないけど、圧勝だったじゃん。」
道場の隅で水分補給をしていると、桜庭先生が話しかけてきた。隣に座ってもらおうと、急いで周りに散らかしていた札を寄せ集める。
「いえいえ。なんか今日の調子がいいだけですよ。いつもは私の方が叩き潰されます。」
「でも、噂は聞いているよ。”期待の新人エース”ってね。」
私は少し顔が熱くなるのを感じた。誰かに褒められたのが久しぶりだったからかもしれない。あるいは、それが桜庭先生だったから…。
「っあ。」
先生は突然声を上げる。先生の40代とは思えない綺麗な手が指す先には、1枚のカルタがあった。
「ねぇ、カルタ部の子って、確か全部の句の意味を言えるんだよね。この句はどんな意味なの?」
ー筑波嶺の 峰より落つる みなの川
恋ぞ積もりて 淵となりぬるー
この句は、平安時代に陽成院によって作られた句だ。たしか、のちにお后となる光孝天皇の娘、綏子内親王に当てたラブレターだったはず。
「筑波のいただきから流れ落ちてくる男女川が、最初は細々とした流れから次第に水かさを増して深い淵となるように、恋心も次第につのって今では淵のように深くなっている。今にも通ずるところのある、恋の句ですね。」