巨大な大陸の、西を統べる帝国――西華国(さいかこく)
 この国を霊獣・白虎(びゃっこ)が守護していると伝承が残っており、新たな皇帝が誕生する際にだけ姿を現すのだという。
 美しき純白の虎が、最後に皆の前に表したのは、現皇帝・白焔(はくえん)が王太妃の腹に宿った頃だと口述で伝えられている。

 歴代の皇帝の中でも、優れた美貌と知性と武芸の才能を生まれ持ったとされるうら若き青年は、困窮した国を救ってくれる、稀代の人物として民達の羨望の的だった。

 そんな彼に期待されるのは有望な男児の誕生であり、後宮には、身分の高低に関係なく、色とりどりの女性達が集められていた。
 けれども、どんなに高い家格の女性に対しても、彼が興味を示すことはなかった。
 何千人の美姫がおわす後宮に、彼が運ぶことはない。

 そうして――皇帝は男色家なのではないか、男性としての機能がないのではないかと、そんな噂が経つことになったのだった。