(これはいったい……? 私の赤ちゃんから……?)

 困惑していると――。
 陛下がゆっくりと口を開いた。

「大臣達しか知らないことだが、私には生まれた時から、もう一つの姿がある」

 その時――。

 陛下が王冠を大臣達に手渡す。
 すると、身体がミチミチと変貌をはじめるではないか。
 近くの側近たちが悲鳴を上げ始めた。
 だが、古くから陛下に仕える人物たちは、その光景を黙って見つめているだけだ。
 ハラリ。
 彼が着ていた衣がその場に翻える。
 
「え? いったい、何が……?」

 そうして、その場に現れたのは――。

 長身の男ほどの大きさの、真っ白な獣。
 さらさらの白い毛には、黒い縞模様が躍る。
 つり上がった黄金の瞳は爛爛と輝いていた。
 しなやかな四肢の先には鋭い爪が輝く。
 彼の周囲には、白く神々しい光が舞い踊る。

 その場にいた青年が呟いた。

「白虎……」

 その言葉は瞬く間に伝播していく。
 大臣たちが、その場にいた民衆たちが一匹の霊獣の前に一斉にひれ伏す。
 陛下が曹貴妃達に向かって告げた。

「この白い波動は白虎の光だ。それを、ただのあやかしのものだと決めつけるとは、なんたる侮辱だ……本当に国の政治を司るものとその娘なのか?」

 青年と妃はブルブルと震え始めた。


「次代の帝が何者か分からないではないな……? 我が妃が孕んでいるのは、どうやら白虎である我が子のようだな」

 そうして、大臣達は私とお腹の中にいる子どもに向かって頭をたれた。

「皇帝の子どもを愚弄した罪。重いぞ。さあ、牢屋へと連れて行け――!」

 彼等の叫びが聞こえる。

 白虎姿の陛下が私のそばに近付いてくる。

「すまない、色々と怖がらせて……だが、君のお陰で裏で色々悪政を敷いていた者たちを一斉排除できる……黙っていて悪かった……このような姿を見せられて不快だったな……さて、すぐに人間に戻ろう」

「待ってください。とても勇猛なお姿で、麗しいです」

「醜いとか怖いとか思わないのか……?」

「思いません……どんな姿でも陛下は陛下です」

「そうか……ありがとう。やはり、君のような女性は他にはいない……」

 そうして、わたしたちは抱きしめあったのだった。