白虎帝の寵姫




(これはいったい……? 私の赤ちゃんから……?)

 私が困惑している最中、陛下がゆっくりと口を開いた。
 光を中心に風が吹いていて、彼の流麗な白銀の髪を揺らした。金冠の飾りも揺れるとシャラシャラと音を立てる。
 紫の衣裳の裾がバタバタと揺れ動く。

「大臣達しか知らないことだが、私には生まれた時から、もう一つの姿がある」

 陛下が金冠を大臣達に手渡す。
 すると、眩い白い光に包みこまれた彼の身体が、ミチミチと変貌をはじめるではないか。
 近くの側近たちが悲鳴を上げ始めた。
 だが、古くから陛下に仕える人物たちは、その光景を黙って見つめているだけだ。
 ハラリ。
 彼が着ていた黒の上衣と赤い下衣がその場に翻える。
 
「え? いったい、何が……?」

 そうして、その場に現れたのは――。

 長身の男ぐらいの大きさの真っ白な獣。
 さらさらの白い毛には、黒い縞模様が躍る。
 つり上がった黄金の瞳は爛爛と輝いていた。
 しなやかな四肢の先には鋭い爪が輝く。
 彼の周囲には、白く神々しい光が舞い踊る。
 その場にいたみすぼらしい青年が呟いた。

「白虎……」

 その言葉は瞬く間に伝播していく。
 大臣たちが、その場にいた民衆たちが一匹の霊獣の前に一斉にひれ伏す。
 陛下が曹貴妃達に向かって告げた。

「この白い波動は白虎の光だ。それを、ただのあやかしのものだと決めつけるとは、なんたる侮辱。本当に国の政治を司るものとその娘なのか?」

 青年と曹貴妃はブルブルと震え始めた。
 近くに待機していた丞相も顔色を真っ青にさせている。

「次代の帝が何者か分からないではないな? 我が妃が孕んでいるのは、どうやら白虎である我が子のようだが?」

 大臣達は私とお腹の中にいる子どもに向かって一斉に頭を垂れた。
 陛下が朗々と告げる。

「皇帝の子どもを愚弄した罪。重いぞ。さあ、牢屋へと連れて行け!」

 丞相と曹貴妃の叫びが聞こえる。一緒に嘘を吐いていたみすぼらしい青年も捕縛されてしまった。
 周囲がざわつく中、白虎姿の陛下が壇上から降りてくると、私のそばへと近付いてくる。

「すまない、色々と怖がらせてしまったね。だけど、君のお陰で裏で色々悪政を敷いていた者たちを一斉排除できたよ。黙っていて悪かった。このような恐ろしい姿を見せられて不快だっただろう? さて、すぐに人間に戻ろう」

 どことなく儚げな口調の白虎に向かって、私は思い切って声をかける。

「待ってください、陛下!」

「どうした、麗華?」

 私は花のような笑顔を浮かべながら告げた。

「陛下のその御姿、とても勇猛なお姿で麗しいと思います」

 白虎の声が心なしかうわずる。

「醜いとか怖いとか思わないの……?」

「思いません。だって、どんな姿でも陛下は陛下ですから」

 私は力強く断言した。
 すると、白虎姿のまま陛下が身体を擦り寄せてくる。
 ふわふわの毛並みが肌に触れると気持ちが良かった。

「そうか、ありがとう。やはり、君のような女性は他にはいないよ、麗華」

 そうして、わたしたちはひしと抱きしめあったのだった。