「こんばんは」
小走りで駆け寄って声をかけると、振り向いたユウさんが微笑みを浮かべて「こんばんは」と返してくれた。
高校に通い始めてから、二週間が経った。家は相変わらず息苦しかったし、学校もやっぱり居心地が悪い。
クラスメイトたちは懲りずになにかと声をかけてきて、やっぱり私は上手く応えられず、そのたびに漣がやって来てなにかと口出しをしてくる。疲弊しきって帰宅したらしたで、「友達はできたね?」、「勉強にはついていけそうね?」とおじいちゃんたちから質問攻めに遭う。
それでもなんとか耐えられたのは、初登校の日以来、毎晩夕食のあとに家を抜け出して、この砂浜でユウさんと会っているからだ。昼の間をなんとか我慢すれば、ユウさんと会って話せる。そう考えるだけで、かなり気が楽になった。
ユウさんは、第一印象に違わず、とても穏やかで明るくて優しい人だった。話せば話すほど、それが伝わってくる。
そして不思議なことに、誰かに自分の話をするのが苦手な私でも、彼が聞いてくれていると、次々と言葉を生み出すことができた。直接的な関わりがないからこそ、逆に気楽になんでも話せるのかもしれない。
「誰が嫌とか、なにか言われたとかじゃないんですけど、なんか嫌なんですよ。空気が嫌っていうのかな……とにかく居心地が悪くて。自分でも理由がよく分かんないんですけど、一日中どこにいても、誰を見ても、なんだか苛々しちゃって……」
今夜もまた、私はとりとめのない、まとまりのない内容をつらつらと話す。今までどんなに嫌なことがあっても誰にも打ち明けず胸の内に秘めてきた反動か、ユウさんを前にすると、まるで堰を切ったように本音が唇から溢れ出してしまうのだ。
こんな湿っぽい話をしたら、たとえばおじいちゃんやおばあちゃんは必要以上に心配するだろうし、漣に話したりした日には「俺もお前を見てると苛々する」などと一刀両断されるに決まっている。
だから、「うんうん」、「へえ」、「そっかあ」などと柔らかい相づちを打つだけで、余計なことは言わずに聞いてくれるユウさんは、私にとって本当にありがたい存在だった。慣れない土地で我慢しながら過ごして溜まった日中の不満やストレスを、夜の海で一気に吐き出すことで、私はなんとか精神のバランスを保っていた。
「今日は六時間目に、バスの……あ、来月遠足があるらしいんですけど、そのときのバスの座席決めがあって、座席表見たらいちばん前の席はひとり席だったんです。私はそこの席がいいと思って。みんなが仲良しの人たちと席埋めていったらどうせ私は最後に余って自動的にひとり席になるからちょうどいいって思ってたんです。そしたら、漣のやつがいきなり『橋本さんたちは三人グループだから、真波も入れてやってよ』とか言い出して、はっ!?ってなって。マジで余計なお世話!ってめっちゃムカつきました。ほんとあいつ、勝手なことばっかり……」
今日はこの話をしようと決めていたので、勢い込んで話してしまってから、ふと我に返った。ちらりと隣を見上げる。
「……なんかごめんなさい、いつもこんな話ばっかりで」
するとユウさんがびっくりしたように目を丸くした。
「え、なんで?」
「いや、毎晩こんな愚痴ばっかり聞かされたら気分悪いですよね。ユウさんって話しやすいから、思わず喋りすぎちゃって……すみません」
私が小さく頭を下げると、ユウさんがふふっと笑った。
「そんなことないよ。むしろ、高校生の話なんか普段はなかなか聞かないからさ、新鮮だよ。あー懐かしいなーって自分の高校時代思い出したり」
「ユウさんの高校時代……」
私は思わず呟いてから訊ねる。
「どんな高校生だったんですか?」
ユウさんが微笑み、海のほうを見て遠い目をした。少し黙り込んでから、ゆっくりと口を開く。
「好きなもののことばっかり考えてたかな」
私は「好きなもの……」と彼の言葉を繰り返した。
「ユウさんの好きなものって?」
気になって訊くと彼は目を丸くして私を見て、それからなにかを考えるように斜め上を見て答えた。
「うーん……バスケとか」
とか、と言うので、他にも〝好きなもの〟をあげるのだろうと思って待っていたら、彼の言葉はそこでいったん途切れた。
「バスケ部に入ってて、毎日部活のために学校行ってたなあ。楽しくてたまらなくて夢中だったんだ。勉強は嫌いだったから、あんまりしてなかった。それでよく怒られてた」
いたずらっぽく笑った彼は、誰に怒られていたかは言わなかった。でも、ユウさんみたいな人も、親や先生に怒られたりしていたのかな、と思うと、なんだかおかしくて笑ってしまった。
「バスケやってたんですね。ユウさんがスポーツしてるのとか、なんか想像できないなあ」
私の中でユウさんは、いつも静かな瞳で海を見つめている儚げな人、というイメージだったので、激しく身体を動かすのが好きだなんて意外だった。
すると、彼のほうもどこか意外そうな顔をした。
「へえ、今の俺ってそういうふうに見えてるんだ。学生のころは、『部活バカ』とか言われてたのにな」
彼が懐かしそうに微笑む。
「子どものころは野球ばっかやってて、中学から高校まではバスケばっかやってたよ。今もたまに仕事が休みの日、友達と草野球とかストリートバスケとかやってるよ」
「えっ、そうなんですか」
さらに意外な情報だった。そういえば、彼はいつも私の話を聞いてくれているばかりで、自分の話をほとんどしない。
休日に友達とスポーツをする彼の姿を思い浮かべながら、じわじわと好奇心が湧き上がってきた。彼のいろんな顔を、もっと知りたい。
「ユウさんって、普段は……というか、お仕事はなにしてるんですか?」
思わず訊ねてから、慌ててつけ加える。
「あっ、すみません、差し支えがなければ……」
私の言葉に、彼はおかしそうに笑った。
「偉いね、そんな言葉使えるなんて」
なんだかまた子ども扱いされているようで、少し悔しい。思わず唇を尖らせたとき、ユウさんがふいにうしろを向いて腕を上げた。
「あそこの青い看板、見える?」
彼が指さした先には、海岸沿いに建つ一軒家があった。建物の脇に、街灯に照らされた淡いブルーの看板が立っている。遠いうえに夜なので、書かれている文字は読み取れなかった。
「あれ、俺の店」
えっ、と私は目を丸くして彼を見上げた。そこには少し照れくさそうな笑みがある。
「喫茶店をやってるんだ。朝から晩まで、ずっとあそこで働いてるよ」
「えっ、お店やってるって、ユウさんが店長ってこと?」
「うん、こう見えてね。まあ、店長っていっても、バイトもいなくて俺ひとりなんだけど。——『ナギサ』っていう店だよ」
その店名を口にするとき、ユウさんはなんだかとても嬉しそうな微笑みを浮かべた。見ているこちらが満たされた気持ちになるくらいに。自分の店のことを心から大切に思っているんだろうな、と思った。
「店のキッチンに立って窓の外を見ると、ちょうど海が見えるんだ。いつでも海が見えるところで働きたくて、あの場所を選んだんだよ。午前中とか夜はあんまりお客さんも来ないから、だいたい景色を眺めてる」
そう言ってから、ユウさんは小さく笑って「実はね」と私を見た。
「あの日も、店のキッチンで片付けしながら何気なく海のほう見たら、真波ちゃんがここでうずくまってるのが見えて。それで気になって下りて来ちゃったんだよね」
あの日というのは、彼と二度目に会った日、私が初めて高校に行った日のことだろう。そういえば、いつもユウさんが夜の散歩をしている時間よりもずいぶん早かったのに、なぜか彼がここに現れたのだ。
あのときの私は学校のことで頭がいっぱいで気がつかなかったけれど、あれは偶然ではなく、彼がわざわざ仕事の手を止めて来てくれたのだと、今になってやっと分かった。
「そうだったんですね……すみません……ありがとうございます」
今さらながらにお礼を言うと、ユウさんは心底驚いた顔をした。
「どうして? 俺は自分が気になったから勝手に様子見に来ただけだよ。真波ちゃんが謝ることもお礼言うこもなんてないよ」
それでも、仕事の邪魔をしてしまったのが申し訳なかったし、そしてなにより、私は嬉しかったのだ。仕事中だったのに、わざわざ私のところまで来てくれたことが。
「本当に、ありがとうございます。あのときユウさんが来てくれなかったら、私……」
その先は、上手く言葉にならなかった。でもユウさんは続きを促したりすることなく、「それならよかった」と屈託なく笑った。
「ユウさんて、何歳なんですか?」
唐突に訊ねてしまった。彼の少年みたいな笑顔と、店を経営しているというギャップが気になってしまったのだ。
「俺? 今年で二十六だよ」
ということは、私の十歳上だ。改めて、ずいぶん年が離れているんだなと思った。
「でも、よく友達から『いつまで経ってもガキっぽいな』って言われる」
彼はくすくすとおかしそうに笑って答えた。
私から見れば、ユウさんの落ち着きやおおらかさは十分に大人っぽいと思うけれど、確かに彼には〝大人〟特有の近寄りがたさや威圧感は皆無だった。それはきっと彼の本来の性質なんだろうと思う。
「……ユウさんが鳥浦にいてくれてよかった、知り合いになれてよかった、って私は思ってます」
また唐突な言葉になってしまった。普段あまり人と会話をしないので、私はどうも適切なタイミングで適切な言葉を出すのが苦手だ。
それでもユウさんは、にっこりと笑って「ありがと、嬉しい」と答えてくれた。その笑顔が、私を妙に落ち着かなくさせた。
小走りで駆け寄って声をかけると、振り向いたユウさんが微笑みを浮かべて「こんばんは」と返してくれた。
高校に通い始めてから、二週間が経った。家は相変わらず息苦しかったし、学校もやっぱり居心地が悪い。
クラスメイトたちは懲りずになにかと声をかけてきて、やっぱり私は上手く応えられず、そのたびに漣がやって来てなにかと口出しをしてくる。疲弊しきって帰宅したらしたで、「友達はできたね?」、「勉強にはついていけそうね?」とおじいちゃんたちから質問攻めに遭う。
それでもなんとか耐えられたのは、初登校の日以来、毎晩夕食のあとに家を抜け出して、この砂浜でユウさんと会っているからだ。昼の間をなんとか我慢すれば、ユウさんと会って話せる。そう考えるだけで、かなり気が楽になった。
ユウさんは、第一印象に違わず、とても穏やかで明るくて優しい人だった。話せば話すほど、それが伝わってくる。
そして不思議なことに、誰かに自分の話をするのが苦手な私でも、彼が聞いてくれていると、次々と言葉を生み出すことができた。直接的な関わりがないからこそ、逆に気楽になんでも話せるのかもしれない。
「誰が嫌とか、なにか言われたとかじゃないんですけど、なんか嫌なんですよ。空気が嫌っていうのかな……とにかく居心地が悪くて。自分でも理由がよく分かんないんですけど、一日中どこにいても、誰を見ても、なんだか苛々しちゃって……」
今夜もまた、私はとりとめのない、まとまりのない内容をつらつらと話す。今までどんなに嫌なことがあっても誰にも打ち明けず胸の内に秘めてきた反動か、ユウさんを前にすると、まるで堰を切ったように本音が唇から溢れ出してしまうのだ。
こんな湿っぽい話をしたら、たとえばおじいちゃんやおばあちゃんは必要以上に心配するだろうし、漣に話したりした日には「俺もお前を見てると苛々する」などと一刀両断されるに決まっている。
だから、「うんうん」、「へえ」、「そっかあ」などと柔らかい相づちを打つだけで、余計なことは言わずに聞いてくれるユウさんは、私にとって本当にありがたい存在だった。慣れない土地で我慢しながら過ごして溜まった日中の不満やストレスを、夜の海で一気に吐き出すことで、私はなんとか精神のバランスを保っていた。
「今日は六時間目に、バスの……あ、来月遠足があるらしいんですけど、そのときのバスの座席決めがあって、座席表見たらいちばん前の席はひとり席だったんです。私はそこの席がいいと思って。みんなが仲良しの人たちと席埋めていったらどうせ私は最後に余って自動的にひとり席になるからちょうどいいって思ってたんです。そしたら、漣のやつがいきなり『橋本さんたちは三人グループだから、真波も入れてやってよ』とか言い出して、はっ!?ってなって。マジで余計なお世話!ってめっちゃムカつきました。ほんとあいつ、勝手なことばっかり……」
今日はこの話をしようと決めていたので、勢い込んで話してしまってから、ふと我に返った。ちらりと隣を見上げる。
「……なんかごめんなさい、いつもこんな話ばっかりで」
するとユウさんがびっくりしたように目を丸くした。
「え、なんで?」
「いや、毎晩こんな愚痴ばっかり聞かされたら気分悪いですよね。ユウさんって話しやすいから、思わず喋りすぎちゃって……すみません」
私が小さく頭を下げると、ユウさんがふふっと笑った。
「そんなことないよ。むしろ、高校生の話なんか普段はなかなか聞かないからさ、新鮮だよ。あー懐かしいなーって自分の高校時代思い出したり」
「ユウさんの高校時代……」
私は思わず呟いてから訊ねる。
「どんな高校生だったんですか?」
ユウさんが微笑み、海のほうを見て遠い目をした。少し黙り込んでから、ゆっくりと口を開く。
「好きなもののことばっかり考えてたかな」
私は「好きなもの……」と彼の言葉を繰り返した。
「ユウさんの好きなものって?」
気になって訊くと彼は目を丸くして私を見て、それからなにかを考えるように斜め上を見て答えた。
「うーん……バスケとか」
とか、と言うので、他にも〝好きなもの〟をあげるのだろうと思って待っていたら、彼の言葉はそこでいったん途切れた。
「バスケ部に入ってて、毎日部活のために学校行ってたなあ。楽しくてたまらなくて夢中だったんだ。勉強は嫌いだったから、あんまりしてなかった。それでよく怒られてた」
いたずらっぽく笑った彼は、誰に怒られていたかは言わなかった。でも、ユウさんみたいな人も、親や先生に怒られたりしていたのかな、と思うと、なんだかおかしくて笑ってしまった。
「バスケやってたんですね。ユウさんがスポーツしてるのとか、なんか想像できないなあ」
私の中でユウさんは、いつも静かな瞳で海を見つめている儚げな人、というイメージだったので、激しく身体を動かすのが好きだなんて意外だった。
すると、彼のほうもどこか意外そうな顔をした。
「へえ、今の俺ってそういうふうに見えてるんだ。学生のころは、『部活バカ』とか言われてたのにな」
彼が懐かしそうに微笑む。
「子どものころは野球ばっかやってて、中学から高校まではバスケばっかやってたよ。今もたまに仕事が休みの日、友達と草野球とかストリートバスケとかやってるよ」
「えっ、そうなんですか」
さらに意外な情報だった。そういえば、彼はいつも私の話を聞いてくれているばかりで、自分の話をほとんどしない。
休日に友達とスポーツをする彼の姿を思い浮かべながら、じわじわと好奇心が湧き上がってきた。彼のいろんな顔を、もっと知りたい。
「ユウさんって、普段は……というか、お仕事はなにしてるんですか?」
思わず訊ねてから、慌ててつけ加える。
「あっ、すみません、差し支えがなければ……」
私の言葉に、彼はおかしそうに笑った。
「偉いね、そんな言葉使えるなんて」
なんだかまた子ども扱いされているようで、少し悔しい。思わず唇を尖らせたとき、ユウさんがふいにうしろを向いて腕を上げた。
「あそこの青い看板、見える?」
彼が指さした先には、海岸沿いに建つ一軒家があった。建物の脇に、街灯に照らされた淡いブルーの看板が立っている。遠いうえに夜なので、書かれている文字は読み取れなかった。
「あれ、俺の店」
えっ、と私は目を丸くして彼を見上げた。そこには少し照れくさそうな笑みがある。
「喫茶店をやってるんだ。朝から晩まで、ずっとあそこで働いてるよ」
「えっ、お店やってるって、ユウさんが店長ってこと?」
「うん、こう見えてね。まあ、店長っていっても、バイトもいなくて俺ひとりなんだけど。——『ナギサ』っていう店だよ」
その店名を口にするとき、ユウさんはなんだかとても嬉しそうな微笑みを浮かべた。見ているこちらが満たされた気持ちになるくらいに。自分の店のことを心から大切に思っているんだろうな、と思った。
「店のキッチンに立って窓の外を見ると、ちょうど海が見えるんだ。いつでも海が見えるところで働きたくて、あの場所を選んだんだよ。午前中とか夜はあんまりお客さんも来ないから、だいたい景色を眺めてる」
そう言ってから、ユウさんは小さく笑って「実はね」と私を見た。
「あの日も、店のキッチンで片付けしながら何気なく海のほう見たら、真波ちゃんがここでうずくまってるのが見えて。それで気になって下りて来ちゃったんだよね」
あの日というのは、彼と二度目に会った日、私が初めて高校に行った日のことだろう。そういえば、いつもユウさんが夜の散歩をしている時間よりもずいぶん早かったのに、なぜか彼がここに現れたのだ。
あのときの私は学校のことで頭がいっぱいで気がつかなかったけれど、あれは偶然ではなく、彼がわざわざ仕事の手を止めて来てくれたのだと、今になってやっと分かった。
「そうだったんですね……すみません……ありがとうございます」
今さらながらにお礼を言うと、ユウさんは心底驚いた顔をした。
「どうして? 俺は自分が気になったから勝手に様子見に来ただけだよ。真波ちゃんが謝ることもお礼言うこもなんてないよ」
それでも、仕事の邪魔をしてしまったのが申し訳なかったし、そしてなにより、私は嬉しかったのだ。仕事中だったのに、わざわざ私のところまで来てくれたことが。
「本当に、ありがとうございます。あのときユウさんが来てくれなかったら、私……」
その先は、上手く言葉にならなかった。でもユウさんは続きを促したりすることなく、「それならよかった」と屈託なく笑った。
「ユウさんて、何歳なんですか?」
唐突に訊ねてしまった。彼の少年みたいな笑顔と、店を経営しているというギャップが気になってしまったのだ。
「俺? 今年で二十六だよ」
ということは、私の十歳上だ。改めて、ずいぶん年が離れているんだなと思った。
「でも、よく友達から『いつまで経ってもガキっぽいな』って言われる」
彼はくすくすとおかしそうに笑って答えた。
私から見れば、ユウさんの落ち着きやおおらかさは十分に大人っぽいと思うけれど、確かに彼には〝大人〟特有の近寄りがたさや威圧感は皆無だった。それはきっと彼の本来の性質なんだろうと思う。
「……ユウさんが鳥浦にいてくれてよかった、知り合いになれてよかった、って私は思ってます」
また唐突な言葉になってしまった。普段あまり人と会話をしないので、私はどうも適切なタイミングで適切な言葉を出すのが苦手だ。
それでもユウさんは、にっこりと笑って「ありがと、嬉しい」と答えてくれた。その笑顔が、私を妙に落ち着かなくさせた。