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あの時の記憶は今でも苦く思い出す。人の裏を知らねば、己を利用されるのだと知った。
そして幼いサラティアナが『太陽の宮』に立ち入れて、ロレシオが立ち入れない理由も分かった。
アンヴァ公爵が言っていた『奇異な銀の瞳』の所為だったのだ。
ロレシオの虹彩は蒼いが、その瞳が蒼から銀のグラデーションの所為で、陽の下で見ると瞳がギラギラと光ったように見える。
それ故父を始め、王族のほとんどがロレシオを忌子として人目につかないように育てることに賛成したのだ。
人の印象は見た目でほとんどが決まる。おそらく花乙女に受け入れられないであろうロレシオを、ゆくゆくの王として民の前に立てさせられない、という尤もな意見に、母カタリアナも頷かざるを得なかったのである。
ロレシオはまだ見ぬ民だけではなく、親族身内からも見捨てられた子供だったのだ。
それ以来ロレシオは人を信じることも、人を愛することもなくなった。
孤独の風が心を冷たくしていたのは最初だけだった。自分しか信じられるものは居ない。そう割り切ってしまえば、どんな仕打ちにも平気な顔が出来た。
自分しか信じられるものは居ない。
そうやって、ロレシオは自分を守って来たのだった……。
ふと、窓の外を見る。
隣の館で熱心に廊下の窓ふきをしているのはリンファスだ。彼女が花乙女なのに花が着いていない理由は歴然、誰からも愛されていないからである。
それなのに、何故あんな風に館に住む少女たちの為に荷物を運んだり、ケイト以外誰もやりたがらない掃除を一生懸命出来るんだろう。
そんなことをして、何になるんだろう。そう思って、館を見つめ続ける。
ふと。
図書室の開いたドアから廊下を窺っている少女が居た。多分、あの花なしの少女を気にしてる。
そうやって、同情でも良いから欲しいのか。
友情にも劣る感情でも良いから欲しいのか。
そう思って自らの胸に去来した気持ちに気付く。
自分は何故、あの少女を見続けているのか。気になるのか。
(ああ、これは)
自虐に口許が歪む。
これもまさしく、あの少女を見て己を知る、
同情という名の自らへの憐みなのだ――――。