「数年前、仕事先で事故で亡くなったんだけど、桃が小さかったから、ずっと亡くなったことが言えなくて、出張ってことにしてるって谷口先輩が話してくれたことがあって」

「でもそれだけじゃ……」

俺の言葉を遮るように、愛子が首を振った。

「桃ね、もうすぐお父さんに会えるって言ってたの。それが気になって……」

「もうすぐ?」

俺と愛子の携帯が同時に鳴った。陸上部のグループラインに駿介からのメッセージが入る。

『アスレチック場にも、テントにもいない』

文字をざっと流したところで再度、音が鳴る。

『了解、俺は中広場まで戻る』
谷口先輩からのメッセージだ。

既読は三つ。

『俺と藤野も中広場に戻る』
既読が三つ付いた。

『彰、砂月は?』
駿介からのラインに俺は固まった。

「え?」

ーーーー思わず声が出た。血の気が引くとはこの事だ。途端にスマホを持つ手が少し震える。

既読が四つにならないのは、駿介と砂月が一緒にいるからだと勝手に思っていた。

一瞬で、頭が真っ白になって、立ち止まる。何度も駿介のメッセージを目で繰り返す。

ーーーー桃だけじゃなくて砂月まで?

どこに行った?時間的にとっくにテントまで着いてるはずだ。

……砂月は目眩を起こしていた、どこかで倒れてたりしたら?どこかで何かに憑かれていたとしたら?

走り出そうとした俺の腕を、愛子が、強く引っ張った。

「春宮彰!」

砂月と表示されたスマホ画面を俺に見せると、愛子が再びスマホを耳に当てた。

(砂月、頼むから、電話出てくれ!)

ーーーー落ち着くんだ。

俺は、駿介にラインの返事を指先で送る。

『砂月はテントに向かった、駿介、いないのか?』

『砂月も桃もテントにはいない、俺も中広場にいく』

駿介からのラインを見て、動悸がしてくる。

愛子を振り返れば、スマホを耳に当てたまま、俺に向かって首を振った。

「彰!愛子くん!」

中広場入り口から谷口先輩が、俺と愛子に向かって声を大声を張り上げた。同時に、ラインメッセージを告げる音が鳴り響いた。

『桃ちゃんと墓地にいます』

砂月からのラインを見たのと同時に、俺は、走り出していた。