「えーんっお兄ちゃーん!たすけてー!」

「どうした!?桃ーーーーっ!」

つい今しがた、砂月と愛子と談笑しながらミーティングをしていた谷口先輩は、雄叫びと共に物凄い勢いで俺達の方へやって来た。

「も……桃が泣いてる!貴様!何をした!!」 

屈強な上腕二頭筋が、駿介の胸ぐらを容赦なく掴んだ。

「何もしてませんけど」

顔色一つ変えずに、涼しげな顔をした駿介からゆっくりと谷口先輩の腕を解いた。

谷口先輩が来る前に、すでに桃の首根っこから素早く手を離していた駿介は、飄々とした態度で俺の肩に手を回した。

「な、彰」

「……まあ、そうだな」

この件に関しては、桃に非があると判断した俺は、駿介側についた。

「彰、本当はどうなんだ!」 

俺の曖昧な返答に、谷口先輩の圧が、今度は俺に回ってくる。鼻息荒く俺を見下ろしながら、掴みかかってきそうな勢いに、俺は一歩後退りした。ゴリの後ろに隠れた小猿は、あっかんべーをしている。 

「何も、ないっすよ」

口元を引き攣らせながら、飛び散った唾を袖で拭う。

やや間があったが、ふーっと長く息を吐き出すと、谷口先輩は、俺たちに背を向けた。

横をちらりと見ると、駿介が大人気なく、桃にあっかんべーをし返している。

「はぁぁぁっ……」

まだ合宿は始まったばかりだ、俺は深い溜息と共に目眩を、おぼえた。