「大丈夫だよ、元々死んでたヤツだから」

おそらく寿命を終えて、地面に転がっていたセミの亡骸を、砂月が誤って、踏み潰してしまったのだ。

ーーーーそして次の瞬間、俺の心臓は止まりそうになった。

砂月が、俺の身体にぴったりとくっついたから。

「お、い、砂月っ」

(え?砂月から俺に抱きついてきたのか?)

頭で考えるより先に、俺の心臓が爆音を立てる。砂月に聞こえそうな鼓動に、思わず俺は砂月から身体を離そうと、一歩下がった。

「彰、早く祓って」

「え?」

「セミ……踏んづけちゃって、『可哀想』って思っちゃったの」

俺を見上げた、砂月は困った顔をして俯いた。

「あ……そういうこと……」

(俺が抱きしめたいなんて思った、気持ちが通じたのかと……)

俺は頭をガシガシと掻いた。

「早く、あき……ミーン……ミーン」

ーーーー砂月が、咄嗟に口を塞いだ。

そして目を丸くしながら、砂月が俺にしがみついた。思わず、クククッと笑う俺を睨むと、砂月が頬を膨らませた。

「分かった、祓うから」

俺は、砂月が完全に憑かれる前に、砂月の細い身体をぎゅっと抱きしめる。