砂月が、屋台でベビーカステラを買って、2人で境内の端っこの松の木の下に座る。

ぱくんと一つ口に放り込んで、2人で顔を見合わせた。

「美味しい」
「うまっ」

松越しに空を見上げれば、満点の星が輝いている。

「雨降らなくて良かったよね、今年も彰と来れて良かった」

並んで座る砂月からは、やっぱり甘い匂いが、する。

「だな、夏休みといえば、やっぱお祭りだよな」

唇を持ち上げた俺に、砂月が小さな声で俺に訊ねる。

「ねぇ、彰……」

「どした?」 

「合宿……私のこと、連れて行ってくれることにしてくれて有難う」

砂月が、俺の瞳をじっと見つめた。 

谷口先輩達との陸上部の合宿ももう十日後に迫っていた。

「……憑かれないように、俺から、離れんなよ」

俺は、最後の一個のベビーカステラを砂月の口に放り込んで、砂月の手を掴むと引っ張り上げた。

「ありはと」

砂月が、モゴモゴと口を動かしながら、お礼を言う。可愛すぎて、今すぐにでも抱きしめたくなる。

「リンゴ飴、買いに行こうぜ」

そう言って、砂月の手を引いた時だった。

クシャリ、と枯葉を踏み潰すような音がして、俺が、思わず振り返ると、砂月が、足元に目を凝らしている。

「砂月?」

「彰ー……やっちゃった」

「へ?」

見れば、砂月の下駄の下に、死んだ蝉が粉々になっている。