「おっと」

慌てて両手で俺はそれを受け取った。

谷口先輩から、投げられたのは、真っ赤なリンゴだった。

「ばあちゃんの家が農家でな、リンゴを、もいでから、ここに来たんだ。頑張ったお前らに、もぎたてリンゴのプレゼントだ」

ニッと笑うと、大きな口で、がぶりと齧り付いている。

「やっぱゴリラだな」

駿介がジャージの胸元で、リンゴを拭くとシャリッと音を立てて咀嚼した。

俺も、真似して齧り付く。見れば、愛子と砂月も仲良く談笑しながら、齧り付いていた。

「うまいな」

「なぁ、リンゴの花言葉の一つにさ、『選ばれた恋』ってあんの」

「どした?急に」

思わず、隣の駿介を見ながら、俺は、一旦リンゴの咀嚼を止める。

「愛子が言ってたの思い出してさ、恋に選ぶも選ばないものなくね?」

確か、愛子に駿介は2回告白して、振られてると言っていた。駿介の告白を断った愛子は、過去のトラウマから、自分の恋を駿介に選んでもらう自信がなかったのかもしれない。

「まあな、恋なんて自分じゃどうしようもねーじゃん」

「だな」

綺麗にリンゴを食べ終わった駿介が、夜空を見上げながら、口角を上げた。

いつか砂月に俺の想いを伝えた時、俺との恋を砂月は選んでくれるだろうか。

さっき願い事をしたばかりの夜空を見上げながら、俺は、しばらく星の煌めきを、ただ静かに眺めた。