池の周りは、電灯もなくほぼ、真っ暗だ。暗闇で良かった。

俺の顔は今、真っ赤だから。

(いい匂いすんのは、砂月だろ、なんて到底言えない)

「見てみて、彰、お星様いっぱいだよ」

砂月が、俺の首元から、片手だけ離して、夜空を指差した。

立ち止まって夜空を、見上げれば、藍色のキャンバスに星屑が散りばめられて、オレンジ色の三日月が、俺たちを見下ろしている。

「あっ」
「あっ」

俺と砂月の声は同時だった。三日月を斜めに横切るように、一本の光の筋が墜ちて消えた。

「流れ星!」

子供みたいに、はしゃぐ砂月の声が、甘くてくすぐったい。

「砂月、願い事、できた?」

砂月から、すぐに返事はなかった。 

「砂月?」

砂月の両腕が、俺の首元に絡みつくと、小さな声が聞こえた。

「……叶ったら、彰に教えるね」

とくんとくんと、砂月の心臓の音が、俺の背中を介して伝染していく。

「お、う」

俺は、砂月をおぶったまま、また走り出した。

砂月には、言えなかったが、俺はさっきの流れ星に咄嗟に願い事をした。


『砂月とずっと一緒にいられますように』


(いつか、砂月に言えたらいいな) 

そんなことを考えながら、俺は、赤い顔してゴールを目指した。