隣を見れば、同じく顔を真っ赤にした愛子が、駿介におんぶされている。

女慣れしてんのか、駿介は、涼しい顔をしながら、目の前を真っ直ぐに見つめている。

(今日は、駿介のヤツ、やけに口数少ないな)

「じゃあ、お前ら準備いいな?」

谷口先輩が、いつの間にかメガホン取り出して、口元に当てている。

「いちについて……ようい、ドンッ!」

俺は、邪念を掻き消すように、走り始めた。

駿介は、スタートダッシュが早い。すでに俺よりも3メートルほど先を走っている。 

「彰?マラソン得意だっけ?」

「いや、短距離のが、断然、得意」

走っているから、言葉は途切れ途切れになる。

「それよりさ、暗いけど、砂月大丈夫か?」

砂月には、事前にラインで、たぬき池は、父さんが、社を建てて、祓い終わっていることを伝えてある。

「全然大丈夫だよ、彰にくっついてるから」

多分、砂月は何気なく、憑かれないことを俺に伝えたいだけなんだと思う。

それでも、砂月と、背中越しに密着してる俺は、もはやトレーニングどころじゃなくなりそうだ。

「……小さい頃、彰によくおんぶしてもらったよね」

10分ほど走っただろうか、少しだけ緩い坂道になる。俺は走るのをやめて、歩き始めた。

「そういや、そうだな。小さい頃は、憑かれて祓ってやった後、こわいって砂月があんまり泣くもんだからさ、よくおんぶして家まで帰ったな」

「うん、彰の背中ってね、お日様みたいな、いい匂いがするんだよ」

「へぇ……」