「砂月、そろそろ公園だからな」
彰が、こちらに振り返って、私にそれだけ告げると、また前を向く。
「気をつけるね」
自転車で少しだけ前を走る、お日様色の髪色を眺めながら、私は小さく答えた。
彰と高校に通い始めて3週間が経った。小さな頃から、すぐに憑かれてしまう私の事を、彰はいつも側で守ってくれる。
高校近くの公園が近づくと、いつも彰は私の少し前を自転車で走る、私を守るために、憑かれてコワイ思いを私がしないように。
そうやって3歳の頃からずっと、私の隣には彰が居て、ずっと守ってくれた。
(彰……大好きだよ)
いつからだろう、素直に言葉に出来なくなったのは。きっと、この間、あんな場面をみてしまったからだろう。彰の後ろ姿を眺めながら、私は小さくため息を、吐き出した。
「砂月、ダンゴムシが左端1匹蟻が群がってる、その先に、蝶々が轢かれて1匹な」
淡々と前を向いて、辺りを見渡しながら彰が情報を伝えてくれる。
「分かった、見ないようにする」
「絶対だかんな」
ぶっきらぼうな、いつもの声が、前をいく彰の後ろ姿から降ってくる。
私は、彰の後ろ姿だけを見つめて、蟻に群がられたダンゴムシの死骸も、蝶々の死骸も見ずに駆け抜ける。
ーーーー決して憑かれないように。
私は、この世のモノではない魂に憑かれやすい体質を持っている。
例えば、蝶々であっても、死んでしまった命に対して『可哀想』という哀の感情や、『どうして?』とその死に疑問を持つと、私の体は、ある一定の時間だけ、その命に取り憑かれてしまうのだ。
そして、取り憑かれた私を救えるのは、春宮神社の神主見習いの彰だけ。
ようやく、校門について二人で自転車置き場に自転車を停めた。
「今日も無事に着いたな」
「ありがとう」
彰が、太陽みたいな笑顔でニッと笑った。とくん、と心臓が跳ねる。私は、彰のこの笑顔が一番好きだから。
「虫の死骸にも何百回、憑かれたか、わかんねぇからな、バッタの時なんて……」
そこまで言って、彰が肩を震わせて笑う。
「もうっ、やめてよ、彰!」
私が、バッタに取り憑かれて、四つん這いでジャンプする姿が可笑しかったと、彰は未だに思い出し笑いする。
「いじわるっ」
「ごめんっ」
彰が、意地悪く笑うと、頬を膨らませた私の頭をくしゃと撫でた。彰の掌があったかくて、嬉しくて、思わず、肩を窄めて顔が熱くなった。私は顔を見られたくなくて、少しだけ俯いた。
「手出して」
彰は、金髪頭を掻きながら、当たり前のように私の手を引いた。途端に私の胸はドキドキが止まらなくなる。
幼稚園の頃からそうだった。彰は、学校に着いて、下足ホールに着くまで、必ず、私の手を引く。それは小学校6年間も中学校3年間も変わらなかった。
今までは近所の子ばかりの学校だったから、特に揶揄われることもなかったけど、高校は、県に一つしかない為、初めて登校した時は、入学早々だったから、私達の事を知らない同級生の何人かに揶揄われた。
「ねぇ、手、繋がなくても大丈夫だよ?もう高校生、だし」
彰の大きな瞳がまんまるになる。
彰が、こちらに振り返って、私にそれだけ告げると、また前を向く。
「気をつけるね」
自転車で少しだけ前を走る、お日様色の髪色を眺めながら、私は小さく答えた。
彰と高校に通い始めて3週間が経った。小さな頃から、すぐに憑かれてしまう私の事を、彰はいつも側で守ってくれる。
高校近くの公園が近づくと、いつも彰は私の少し前を自転車で走る、私を守るために、憑かれてコワイ思いを私がしないように。
そうやって3歳の頃からずっと、私の隣には彰が居て、ずっと守ってくれた。
(彰……大好きだよ)
いつからだろう、素直に言葉に出来なくなったのは。きっと、この間、あんな場面をみてしまったからだろう。彰の後ろ姿を眺めながら、私は小さくため息を、吐き出した。
「砂月、ダンゴムシが左端1匹蟻が群がってる、その先に、蝶々が轢かれて1匹な」
淡々と前を向いて、辺りを見渡しながら彰が情報を伝えてくれる。
「分かった、見ないようにする」
「絶対だかんな」
ぶっきらぼうな、いつもの声が、前をいく彰の後ろ姿から降ってくる。
私は、彰の後ろ姿だけを見つめて、蟻に群がられたダンゴムシの死骸も、蝶々の死骸も見ずに駆け抜ける。
ーーーー決して憑かれないように。
私は、この世のモノではない魂に憑かれやすい体質を持っている。
例えば、蝶々であっても、死んでしまった命に対して『可哀想』という哀の感情や、『どうして?』とその死に疑問を持つと、私の体は、ある一定の時間だけ、その命に取り憑かれてしまうのだ。
そして、取り憑かれた私を救えるのは、春宮神社の神主見習いの彰だけ。
ようやく、校門について二人で自転車置き場に自転車を停めた。
「今日も無事に着いたな」
「ありがとう」
彰が、太陽みたいな笑顔でニッと笑った。とくん、と心臓が跳ねる。私は、彰のこの笑顔が一番好きだから。
「虫の死骸にも何百回、憑かれたか、わかんねぇからな、バッタの時なんて……」
そこまで言って、彰が肩を震わせて笑う。
「もうっ、やめてよ、彰!」
私が、バッタに取り憑かれて、四つん這いでジャンプする姿が可笑しかったと、彰は未だに思い出し笑いする。
「いじわるっ」
「ごめんっ」
彰が、意地悪く笑うと、頬を膨らませた私の頭をくしゃと撫でた。彰の掌があったかくて、嬉しくて、思わず、肩を窄めて顔が熱くなった。私は顔を見られたくなくて、少しだけ俯いた。
「手出して」
彰は、金髪頭を掻きながら、当たり前のように私の手を引いた。途端に私の胸はドキドキが止まらなくなる。
幼稚園の頃からそうだった。彰は、学校に着いて、下足ホールに着くまで、必ず、私の手を引く。それは小学校6年間も中学校3年間も変わらなかった。
今までは近所の子ばかりの学校だったから、特に揶揄われることもなかったけど、高校は、県に一つしかない為、初めて登校した時は、入学早々だったから、私達の事を知らない同級生の何人かに揶揄われた。
「ねぇ、手、繋がなくても大丈夫だよ?もう高校生、だし」
彰の大きな瞳がまんまるになる。