リビングにある食器、お茶碗、湯呑み、皿、何でも、3組揃っている。

母が使っていた、エプロンは、いつも、いつの間にか洗濯されて、椅子の背もたれに、母が居た時の様にかかっている。

歯ブラシも3本、クローゼットを開ければ、母のよく着ていたワンピースやコートもそのままだ。俺も未だに、先に寝てしまっただけで、まるで、母がいるような気持ちになる。

此処に居ると母との思い出が溢れて、父は辛いんだと思う。

時折戻ってきた時に、母のエプロンを洗う父の気持ちを思うと、俺は、父には何も言えない。
幼心にも、父は本当に母を大切にしていたから。

「待たせたな」

パジャマ姿の父は、何度見ても違和感がある。

小さな頃から、父といえば、斎服で、お祓いは勿論、神社の掃除をしたり、祈祷したりする父の姿しか見たことがないから。

俺は、お茶漬けと湯呑みに緑茶を注ぐと、父の前にことんと置いた。

「悪いな」

そう言うと、父は、お茶漬けに箸をつけた。

「……砂月ちゃんは元気か?祓ってやれてるか?」

「……あぁ、最近は砂月も憑かれることも減ってきたけど、この間は、悪霊で祓えなくてさ……友達が、たまたま牧師の息子だったから、悪魔祓いしてもらえたけど……正直ヤバかった」

「俺たち、神主の血筋の場合は、悪霊の場合は、神札(しんさつ)がないとまず、祓えない」

「え?父さんは祓えるの?」

「当たり前だろう、祓えないものはない。……そのうち、お前にも教えてやる」 

父は、ご馳走様でしたと、箸をおくと、湯呑みの緑茶を(すす)った。