「ごめん、遅れた」

 放課後、屋上で待っていたら愛子が、軽く息を吐きながら、遅れてやってきた。

「いや、さっき来たとこだから」

 俺は、藤野が手に苺ミルクを抱えてることの方が気になった。

「何?気に入った?あげようか?」

「いや、大丈夫、朝はサンキュ」

 今飲んだら、朝の苺ミルクの味を思い出して俺は、吐くかもしれない。

 屋上の最端の無機質な鉄柵に、両腕を乗せると、透き通った青空が雲ひとつなく、ただ際限なく広がっている。

俺の真似をするように愛子も、華奢な右手だけ鉄柵にかけるとこちらを真っ直ぐに見つめた。

「昨日は本当に、ごめんなさい」

凛と背筋を伸ばして、謝罪する姿と綺麗な顔が合わさって、愛子に特別な想いがなくとも、勝手に心臓がとくんと跳ねた。

改めて見ると、相当な美人だと思う。

この間のように、他の学年の奴等が見に来るわけだな。愛子ちゃん綺麗だから先輩達からもモテるんだよ、と砂月が話していたのを思い出した。

「いや、俺も黙っててごめん。藤野には言っておけば良かったよな。……砂月は迷惑かけちゃいけないって言うのと、そんな体質信じてもらえないって思ってるから、その、藤野と仲いいだろ?変なこと言って、嫌われたくなくて話してなかったと思うし……」

そこまで聞いて、愛子がふっと笑った。

「すごい。あたしが砂月に謝ったとき、おんなじこと言ってた」

ポスっとストローを挿し、苺ミルクが窄められた唇から愛子の体内へと入っていく。

なぜだか、直視していられなくて、俺は目線を眼下に広がる、運動場へと目を向けた。