「ある日、俺が、ふざけて廃病院に肝試し行こうってなってさ、愛子が俺の姉貴を誘って三人で行ったんだよ。一人っ子の愛子は、姉貴に懐いてたから。そしたら、姉貴は憑きやすい体質でさ、俺も知らなくて……慌てて、親父呼んで祓ってもらったんだけどさ……」

「藤野は、自分のせいだって責めたのか?」

「そ。俺が誘ったんだから、何度も気にすんなって言ったんだけど、憑かれた姉貴が、やっぱ祓うまでは、苦しそうでさ、トラウマ?っていうの?愛子、誰かが憑かれるのを酷く怖がるようになってさ」

電灯が点いて、駿介は、スチールベンチから伸びる自身の影を見つめていた。

「姉貴のことがあってから、愛子は罪悪感からなのか、わかんないけど、俺と距離取るようになってさ。ほんと……ムカつく位、意地っ張りなんだよ」

駿介が、呆れたように小さくため息を吐いた。

「なぁ、お姉さん、後遺症とかもなかったんだよな?」

「あぁ、勿論、俺とは、10歳離れてて、2年前、東京の教会の牧師に嫁いだから、もう安心だけどな」

駿介が、俺を見ながら唇を持ち上げた。

「それがキッカケかな、俺が親父の跡、継ごうかなって真剣に思ったのは。自分しかできないことで、誰かを『救える』なんてさ、ある意味幸せだろ」


ーーーー『彰に救ってほしいの』 

いつもそう言って、俺を見つめる砂月の顔が浮かぶ。俺は、砂月を救うために、祓ってきたけど、砂月は自分よりも、自分に取り憑いた相手を救って欲しいんだ。

それは、砂月にしかできないことだから。

自動で点灯した廊下の蛍光灯が、チカチカ光って、俺と駿介の間の灰色の通路が揺れた。