「……さ、つき」

思わず、躊躇うほどの憎悪を、秘めた顔だった。

「離せ、汚らわしい」

俺を突き飛ばすと、両手を広げて砂月が、クククッと笑った。 

「何十年ぶりかしら。まさか、こんないい身体が手に入るなんて」

手を開いたり閉じたりしながら、柔らかな胸まである、黒髪をうなじから掻き上げた。

だめだ、早く祓わないと砂月が……。

「砂月……すぐ祓ってやるから」

そう言って、俺は、砂月の肩に触れる。


ーーーーその瞬間、左頬に乾いた音が鳴った。

「汚い手で触るな」

ニヤリと品なく砂月が笑った。

「砂月から出て行け!」

俺は、一瞬の隙をついて、砂月の両手を束ねて右手で、力一杯壁に押し当てる。
そのまま左手で、砂月の腰を引き寄せて、耳元で祓いの言葉を唱える。

「いたいのいたいの《《とんでいけ》》」
「いたいのいたいの《《飛んで逝け》》」

「離せっ!!!」

砂月とは思えない、ものすごい勢いで弾き飛ばされて、俺は、埃まみれの床に転がった。

すぐに起き上がって砂月を見る。

祓いの言葉は唱え終えた。もう少し……そうすれば帰ってくるはず。頼む……帰ってきてくれ。

「何だ?お前?」

砂月が、冷たい目で唇を持ち上げた。

「砂月?砂月!」

ーーーー祓いの言葉が効かない?

「う、そだろ……?」


何でだ、今までだって一度も祓えなかった事などなかったのに。混乱する。何で……。何がいつもと違う?何故だ……?

砂月が、妖艶に口元に笑みを浮かべる。

まるで、闇に浮かび上がる、悪魔みたいだ。