「俺もお前も『恋人』じゃない。他人が、あーだこーだと勝手に決めつけちゃだめだろ。最後は本人がどうしたいかじゃないのか?」

「お前に言われたくねーよ」 

「ちょっとはわかるつもりだけどね」

砂月が、憑かれるからと俺がいつも側に居ることで、砂月は窮屈な思いをしているのかもしれない。

幼なじみというレッテルに胡座をかいて、砂月を籠の中の鳥にしているのは俺だ。わかってたけどわからない振りをしてた。俺は固く右拳を握りしめた。

駿介を背に俺は、黙って歩き出した。自分が、何だか酷く惨めだ。

ーーーー幼なじみって何だ?

ーーーー恋愛としての『好き』と人としての『好き』の差はなんだ?

砂月は、俺に対して後者の様な思いを抱いている気がしてならない。それこそ家族の様な。

幼い頃から一緒に居すぎてるせいもあるが、特に俺と砂月は「憑かれる者」と「祓う者」の関係がよりそう感じさせるのかもしれない。

悶々としながら、ロッカーで着替えて外に出ると、谷口先輩と愛子の姿が見えた。

「砂月は?」 

「ああ、用具置き場にピストルとか返しに行ってくれてる。」

そっけなく愛子が、俺に答えた。 

「一人で大丈夫か?!」

声を顰める様に谷口先輩が、愛子に訊ねた。

「え、そんな重たいもの頼んでないですけど」

「違うよ、愛子くん。ほら、あの噂の話だよ」

谷口先輩は、大きな顔を、愛子と俺にぐっと寄せながら、ゴツゴツとした人差し指で立てながら、俺達に口を開いた。