「お前ら、わかってると思うが全力だせよ」
谷口先輩が、スターターピストル片手に真面目な顔で言った。
「彰、緊張してんの?」
軽く太ももを、上げ下ろししながら、駿介が目を細めている。
「してねーよ。お前を負かすのが楽しみなだけ」
真っ青に晴れた空には、雲一つなかった。深呼吸を一つして、スターティングブロックに足をかける。
こんな風にちゃんと走るのは、生まれて初めてかもしれない。
谷口先輩が、スターターピストルを空に構える。
ーーーー耳を澄ます。もう一度深く呼吸して止める。
空を切る、乾いた音と共に俺は、蹴り出した。
勝負は一瞬だった。
感覚的には、ほぼ同時だった。俺と同じ位速い奴なんて、駿介が初めてだった。
「お前ら!素晴らしいぞ!」
パンパンパンと拍手をしながら、谷口先輩がこちらにやって来る。
息があがる。こんなに一生懸命走ったのは、小学校のリレーのアンカー以来かもしれない。
駿介も肩で、息をしながら太腿に両腕を置いて自身の影が映る、地面を見つめていた。