「さ、出来たわ」

 ふわりと両手で、広げられたドレスのポケットには、クマの刺繍とその下に「あき」と縫われていた。

「……娘さん、喜びますね」

河野さんが、満面の笑みで、はい、と答えた。時間は、丁度、砂月が、憑かれてから三時間弱だ。

ーーーーこれ以上は砂月の負担になる。

河野さんも悟ったようだった。

「今日は本当にありがとう、じゃあ……さようなら……」

河野さんは、静かに瞳を閉じた。

俺は、ゆっくりと両腕で砂月を包み込んだ。

俺は、祓う時、唯一砂月を抱きしめる。そして砂月の耳元で祓いの言葉を口にする。

「いたいのいたいの《《とんでいけ》》」
「いたいのいたいの《《飛んで逝け》》」

小さい時から、おまじないみたいに、俺は、この言葉を繰り返し唱える。父さんに聞けば、他の言葉で祓うことも、出来るんだろうけど、小さい頃から、こうやって砂月を祓ってるから、俺は、これで良かった。

柔らかい髪に顔を(うず)めるようにして、砂月を待つ。砂月の甘い香りが鼻を掠める。心地よさに、このままずっとこうしていたくなる。

ーーーー早く砂月に会いたい、声が、聞きたくて堪らない。