「あ……」

くまの刺繍の下に、『あき』と、文字を縫いながら河野さんが声を発した。

「大丈夫ですか?」

てっきり針が指に当たったのかと、声をかけた俺に、慌てて河野さんが、首を振った。

「あ、ごめんなさい。針で刺したんじゃないの。ちょっと思い出したことあって……この刺繍を教えてくれた友達、神社に嫁いだんだけど、その子供に一度だけ会ったことがあって」

「あぁ、そうなんですね」

「うちの娘、あきって言うんですけど、その友達の子供が『あきら』っていう名前の男の子なんです。名付けたのは友達で、その男の子の名前の由来が、凄く素敵だったから、うちの娘にも付けたんです。そのことも、その友達に伝えられたら良かったなって」

河野さんは、にこりと笑った。

「そう……なんですか」

ーーーー偶然、なんだろうか?あきらなんて名前どこにだって……。


「あの、……その刺繍教えてくれた人って、さっき神社に嫁いだって言ってましたよね?どこの神社か覚えてます?」

「あぁ、ここから少し離れてるけど、春宮神社ってとこよ。あ、神主見習いって言ってたものね。何だかご縁を感じちゃうわね」