「河野さん、大丈夫でしたか?」

ちょうどその時、カチャンと保育園の入り口である、オートロックの扉が開かれる音がした。

「はい、今の私は、河野の姪だと話して、私と娘の名前と、私しか知らない娘の話を少ししたらすぐに開けてくれました」

「俺も入っちゃって大丈夫ですか?」 

「ええ、彼氏も一緒だと話したので大丈夫です」 

「えぇっ!」

 思わず大きな声を出した俺を、河野さんがクスクスと笑った。 

入ってすぐの下足ホール前に行くと、愛想のない年長クラスの担任だとかいう人に、俺たちはきりん組とプレートの掲げてある、教室に案内された。鍵を開けて、俺たちを案内すると担任は、そそくさとお遊戯会の会場となる体育館に戻っていった。

 河野さんは慣れた手つきで「かわのあき」と書かれたロッカーから、可愛らしいドレスと裁縫セットを取り出した。

「白雪姫のお遊戯なんです。ジャンケンに勝って白雪姫の役が出来るって大喜びで……」

 寂しげに河野さんが口を開いた。

「………」  

ーーーー俺は何も言えない。本当は見れることなら、その目で可愛らしいドレスを着た娘さんを見たかっただろう。

「ごめんなさい、すぐ仕上げますね」

そのまま、河野さんは、日差しの差し込む窓際に向かって座ると、針に糸を通し、慣れた手つきで縫い物を始めた。

何もする事が無い俺は、手持ち無沙汰もあり、河野さんの隣に、少し離れて座った。