「あの、わかってると思いますけど、砂月が、あなたに身体貸せる時間も、そんなに長くないんで、手短に、あなたの最期の願い聞かせて貰えますか?」

「最期の、願い?」

河野さんが問い返した。俺は砂月が取り憑かれるたびに、その相手に必ず話す、文言を一気に言葉にする。

「願いっていっても物理的なものに限ります。手紙とか贈り物とか。家族と話がしたいとか、よく言ってくる人も居ますけど……まずこんな事ご家族も信じないでしょうし、俺は、砂月を変な目で見られなくないんで……すいません」

頭を下げた俺に、河野さんが顔の前で手を振った。

「……勿論です。面倒なことになってしまって、ごめんなさい」

「謝らないでください、……俺は……砂月のことしか考えて無いんで……」

実際、俺は、今すぐにでも祓いたい。それに、正直、面倒か面倒じゃないかと言われたら前者だ。今すぐ祓って、砂月を楽にしてやりたい。咄嗟に適当な言葉が、見つからずに俺は、相手に言葉の続きを促した。

「河野さんの願い……きいてもいいですか?」

砂月は、取り憑かれる時、決まって、取り憑いた人の最期の願いを叶えてあげてほしいと、いつも俺に言う。

ーーーー『約束だよ。その人の願いを叶えたら、彰が祓って私を連れ戻してね』

(人の気知らないで)

俺は唇を噛み締めた。ちゃんと祓えて、ちゃんと砂月が戻ってくるかもわからないのに。

河野さんは、いつのまにか、親子連れが帰って、静かになった公園を少し寂しげに見つめると、晴れ渡る青空を眺めていた。

「……まさか、こんな風にまた『生きれる』とは思わなかったから」

ーーーー生きれる……か。

砂月の生きてる時間を死者に譲ってまで、することなのかよ。今すぐ祓ってやろうかと思う気持ちを、俺はぐっと堪えた。

(彰に救って欲しいの)

青空から、砂月の声が降ってきた気がしたから。