そんな俺たちの沈黙を破るかのように、母親たちの、笑い声だけがやけに響いてくる。

「私、河野恵子(かわのけいこ)と申します。さんずい編に可能の可の方のかわ(かわ)、野原の野に恵まれる子供です。保育士をしています。えっと、実は三日前にあそこで車に跳ねられて、意識不明だったんですけど……その……死んでしまったみたいです」

「あ、……はい」

間の抜けたような返事になった。取り憑かれた砂月の声と顔で、死にましたと、言われるのはやっぱり慣れない。

「とても急いでたんです。子供の迎えの時間が迫ってて、それでつい、飛び出しちゃったんです」

「えっ、飛び出した?」

「あ、赤信号無視して、横断歩道渡ってしまったんです。日が暮れて暗かったのと、相手の車のヘッドランプが点いてなかったのでわからなくて」 

「あぁ……そう……なんですね」

河野さんは、やはり後悔しているみたいで唇を少し噛み締めた。

よくある不慮の事故というだ。

河野さんがちゃんと青信号を待っていれば。車がヘッドランプを点けていれば。たらればを言っても仕方ないのは分かるけど。防げたかも知れない事故はやっぱり気の毒に思う。こんな見ず知らずの俺でも。

「見た目に寄らず、優しいんですね」

「優しくなんかないです……」

にこりと笑った河野さんに思わずドキッとした。砂月じゃないのに、砂月の顔で砂月の声で、そんな風に言われると、どうしていいかわからなくなる。

「別に……砂月の頼みなんで」

「あ、彼女さん、砂月ちゃんって言うんですね」

(だから、アンタが砂月なんだよ、俺から見たら)

喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「違います、幼なじみなだけです」

俺はそっけなく返事した。早く祓ってちゃんと砂月に会いたい。