「ダメだよ、彰っ」

砂月が細い腕で、精一杯、俺を突いて身体を離す。

「砂月、いいかげんにしろよ!そりゃ困ってるかもしんないけどさ、でも死んだ他人のために砂月が身体貸して、しんどい思いしなくてもいいだろっ!」

思わず怒鳴った俺に、砂月が肩を震わせるのが分かった。
砂月の目から涙が転がっていく。

「泣くなよ……ごめん。……でも、やっぱ祓おう?」

砂月のほっぺたに触れて涙を掬ってやる。

「記憶が……なくなるから、怖いけど。でも、でも。この女の人の助けになるかもって思うと……」

「砂月、もう時間ないからっ」

早くしないと憑かれる時間が迫ってくる。
いつも『憑かれる』のは砂月が『干渉』をしてから大体十分程度だ。

おそらく砂月は、昨日まで無かった花束に、どうして?と干渉したのだ。

「砂月頼むから!たまには俺の言うことも聞けよっ」

「……願い、彰がこの人を救ってあげて欲しいの」

「馬鹿か!俺は……」

砂月だけを救いたいって、口を突いて出そうになった時だった。


「はじめ、まして……」

おずおずと、こちらに話しかけてくる砂月は、もう砂月の話し方ではなかった。

俺は、思わず下唇を噛んだ。