そんな砂月を眺めながら、信号の横断歩道の手前で止まった時だった。

ーーーー横断歩道の反対側に昨日までなかったモノがある。

横断歩道を、渡った先の、どこにでもある電信柱。その根本に綺麗なカーネーションとかすみ草の花束がくくりつけてあった。昨日帰る時はなかった筈だ。

ーーーーつまり、誰かが昨日、此処で亡くなっているということ。

「砂月!」

思わず、自分の自転車が倒れるのも構わず、砂月の肩を掴んだ。

「砂月?大丈夫か?」

砂月は、ゆっくりと自転車を停める。

こちらを見た、砂月の瞳が少し潤んでいるように見えた。

「……彰……あき、ら」

不安そうな声で、繰り返し名前を呼ばれて、伸ばされた細い白い手にブレザーをシャツ毎ぎゅっと掴まれる。

嫌な予感がした。

「『干渉』……したのか?砂月?」

 泣き出しそうな顔で、こちらをじっと見つめる砂月が居た。

命の死に対して、『どうして』と疑問をもったり、『悲しい』など、哀の感情をもつことが、死んだ魂の『干渉』となり、砂月が『憑かれる』きっかけになる。

「すぐ祓うから、おいで」

「……やだ」

首をぶんぶん振りながら、砂月は拒絶する。

「砂月?大丈夫だから、早く」

砂月を、祓う為に両腕に包もうとしたが、砂月の両腕にぐいと押し返された。

「だめ、だって、この人困ってる」 

大きな瞳に、涙をいっぱい溜めてるのが分かった。この人というのは、砂月が、取り憑かれそうになっている、昨日、ここで亡くなった人ことだ。

「私……助けてあげたい」

砂月の小さな肩が震えてる。

「ダメだ!早く、砂月!」    

俺は、強引に砂月の手を引いて抱き寄せた。