(うち)に置いてある、いつもの砂月専用のピンクのマグカップと、俺が使ってる黒のマグカップに、ココアの粉末をいれてお湯を注ぐ。

零さないように、両手で持って自室の半開きにしておいた扉を開けた。

「砂月?」

砂月は、テーブルに腕を重ねて、体を預けて静かな呼吸を繰り返している。

俺は、教科書の散らばるデスクに、ココアのマグカップを二つ置いてから、砂月の隣にしゃがみ込んだ。

長い睫毛に、黒いふわふわの髪の毛。寝顔は小さな頃から変わらない。砂月は何も変わらないのに、俺の心だけが、変わったのかもしれない。寝顔を見てるだけで、幸せで、鼓動はすぐに高鳴る。それは、小さい頃からの幼なじみとは少し違う、砂月を1人の女性としてみる感情だ。

起こさないように、俺はそっと砂月の頬に触れる。 

「好きだよ」

こうやって、聞こえないと分かってるなら、いくらでも言葉に出せるのに。

本当は砂月に何度でも好きだと言いたいのに。

「幼なじみって難しいよな……」 

いつか、俺の心のパズルのピースを砂月にありのまま嵌め込める日なんてくるんだろうか。

俺の想いを伝えても、砂月は、俺のそばに居てくれるんだろうか。それとも……。 

俺は、砂月を抱えあげると、俺のベッドに寝かせて布団を掛けた。

「おやすみ」

俺は、ココアを飲み干し、美紀子さんにラインしてから、ベッド下のカーペットにゴロンと転がった。

リモコンで電気を消すと、小さく砂月の呼吸音が聞こえてきて、俺は、大きくなりそうな鼓動を抱え込むようにしながら、目を瞑った。