「彰ーっ」

半分だけ、開けておいた自室の出窓を覗くと、一メートル先に、同じく自室の出窓から身を乗り出している砂月が見えた。

「ばか、危ないだろっ」

眉を少し寄せた俺をみて、砂月が、小さく舌を出した。家が、隣同士の俺と砂月の2階にある自室の位置は、ほとんど同じ場所にあるのだ。

お互いの出窓を開けて、互いに手を伸ばして掌を繋げば、1メートルほどしか離れてない二階の部屋は簡単に行き来できる。

「手出して」 

俺の掌を砂月はしっかり握りしめると、素足で俺の部屋の出窓の桟に足を伸ばす。

俺は抱きしめるようにして、砂月を自室に引き込んだ。

「有難う、毎回、入るまでドキドキしちゃう」  

俺を見上げて、にっこり笑う、砂月のお風呂上がりの石鹸の匂いと、甘い髪の香りに離したくなくなりそうだ。可愛らしいピンクと白の縞々のスウェット姿に俺は思わず視線を逸らした。

「……どういたしまして」  

(俺は別意味でドキドキしてんだけどな……いつか、きつく抱きしめてしまいそうだ)

自制心が壊れて、心臓が爆音を立てないうちに俺は砂月から、両手を離した。

「わぁ、この間より、出来てる!この、真っ黒クロタと、どんぐり、のとこ!」 

砂月が、部屋の隅のローテーブルに置いてある、やりかけのパズルを指差した。

砂月は小さい頃から、このとなりのトロロが大好きだった。前回は、サツキとメイが、たぬきバスに乗って揺れるラストシーンのパズルを完成させたものを額に入れて、砂月が自室に飾っている。

「今日はどこやるの?この白いちっちゃいトロロのとこ?」  

「そうそう、どんぐりを追いかけるメイちゃんと白いトロロのシーンだからな」

「早くやろう、彰」

砂月が、俺のスウェットの裾を引っ張ると隣に座るように、俺を見上げる。

「お、おう」

小さなローテーブルは、並んで座ると肩が触れる距離だ。5000ピースのうち、まだ4500ピースの中から、白いトロロっぽいピースを二人で探していく。

時々意図せずに、触れる互いの指先を、砂月はなんとも思っていないのか一生懸命に白いピースをさがしている。 

(俺だけかよ……)

こんなに近くにいるのに、砂月は俺みたいにドキドキしたりしないことに、少しだけ苛立ちそうになる。俺のこと、砂月には、やっぱり幼なじみにしか見てもらえないんだろうか。

チラッと見た砂月は、小さな指先であれこれ、ピースと睨めっこしている。

(俺も、パズルに集中するか)