母の前では、さすがに取ってあげるのは、恥ずかしくて、頬を膨らませたまま、私は彰の頬っぺた指差した。

「お、マジか」 

彰は、人差し指で、頬っぺたのご飯粒を触るとそのままパクンと食べた。

「取れた?」

彰の綺麗な二重瞼が、私をふいに見つめて、鼓動が早くなる。

「うん、取れてる」

「美紀子おばさん、ご飯おかわりしていい?」

「勿論」

母が、彰から大きなお茶碗を受け取るとキッチンへと向かう。その後ろ姿を見ながら、彰が私の耳元に顔を寄せた。

「なぁ、今日あれやるけどくる?」

「え?」

耳元で囁かれた彰の声にドキドキして、咄嗟に聞き返してしまった。

「パズル」

彰がお味噌を飲み干しながら、私に訊ねた。

「あ、しようかな、でもあれ、なかなか終わらないね」

いつもパズルをする時の彰は、やきもきしながらも一生懸命で、私は、その様子を見てるだけで優しい気持ちになる。

「ま、完成した時は、すっげー達成感だけどな」

彰が、有難うございますと、お茶碗を母から受け取りながら、母にちゃんと許可をもらう。

「美紀子おばさん、今日の夜、砂月、俺の部屋きても大丈夫?」

母が口元に手を当てながら、クスクスと笑った。

「勿論よ、毎回私にきかなくても、大丈夫よ。彰君は息子みたいに思ってるから」

彰が少しだけ頬を赤らめると、有難う御座います、と再び、母にお礼をいった。

「あ、そのかわり、砂月が、落っこちないようにだけ、お願いね」

「もう、お母さん、私だってそこまで鈍臭くないもん」

「そうかしら?でも彰君がいるなら安心ね」

「あ、絶対怪我とかさせないようにするんで」

真面目なトーンの彰の声に、つい錯覚しそうになる。

私の誰にも言えない恋心と、彰の私に対する思いは、憑かれやすい幼なじみをほっとけないだけで、きっと違うのに。

母が、私と彰を交互に見ながら微笑んだ。

そして、私の頭をくしゃっと撫でてから、空っぽになったテーブルのプレートを重ねた。