時間は19時回ったところだ。私達三人はいつも大体この時間に夜ご飯を、食べる。

「うまっ、美紀子(みきこ)さん、めっちゃくちゃ美味しい」

小さな木製テーブルを囲みながら、彰がハンバーグを頬張った。

「ふふっ、相変わらず彰君は、よく食べてくれるから作りがいがあるわ」

母が微笑みながら、空になった彰のグラスにルイボスティーを注ぐ。

彰の家には、母親は居ない。うちには父親がいない。私が小さい頃に離婚した母は、空気の美味しい所で子育てしたいと、此処へ引っ越してきたと話してくれた。

父親が、不在なことが多い彰は、ほとんど毎日、私の家で夜ご飯を食べる。

「隆さん、お忙しそうね」

「あ、全然、父さん神社に引きこもってるだけで……暇っすよ」

肩をすくめた彰に母が、寂しげな顔をした。

「美紀子おばさん、そんな顔しないでよ。たしかに父さんは……母さん死んでから、あんま家に帰ってこないけど、俺は、こうやって、いつもご飯食べさせてもらって、本当感謝してます」

彰は、ペコリと頭をさげると、ニッっと笑った。

「こちらこそ、いつも砂月を守ってくれて、有難うね」

母は、私が憑かれやすいことを勿論知っている。そして、彰がいつも祓ってくれていることも。

「いや、全然大丈夫です、もう慣れっこなんで、な、砂月」

意地悪な顔をした彰を見ながら、私は口を尖らせた。

「もう、虫くらいだったら憑かれたりしないもん」

「この間は、車に轢かれた毛虫が『可哀想』って取り憑かれたばっかだろ」

「あ、それ言わない約束だったのに!」 

顔を赤くして頬を膨らませた私を見ながら、母がクスクスと笑った。

「彰こそ、またご飯粒ついてるよ」