「彰ー、先にお風呂入ったよ、彰は?」
俺の家には、今晩から砂月がいる。ちゃんと神主として、一人前になったら、二人の家を借りようと思っているが、もう、窓を開けて互いが出入りしなくても、これから夜もずっと一緒に過ごせるなんて夢みたいだ。
「ねぇ、彰?聞いてる?」
「聞いてるよ」
見慣れない砂月の洗いたての髪の毛と水玉模様のパジャマに、何だか、むず痒いような、くすぐったいような、でも幸せだ。
「俺、もうちょい、テレビ」
「あ!また俺って言った」
「あー、やっぱさ、急には無理だろ」
砂月は、マグカップにココアを注ぐと、テーブルに二つ置き、俺のソファーの横に、ちょこんと座った。点けているテレビからは、バラエティ番組のペット自慢のコーナーが、始まったところだ。
「小さい頃は、僕っていってたのに」
砂月が、口を尖らせた。
「そうだっけ?」
俺は、いや僕は、4月から正式に、春宮神社で働くことになっている。父さんが、俺、僕につけた注文は一つ。
神主として働くからには、神様の手前、言葉遣いは丁寧に、手始めに一人称を、変えてこいと言われた。
「可愛かったな、僕って言ってた、小さい頃の彰」
可愛いのは、砂月の方だろ。
「可愛い?んな訳ねーだろ」
「可愛かったよ、目がクリッとしてて、なんだか笑うとお日様みたいで」
「過去形じゃん」
「ほんとだ」
吹き出しながら砂月が、甘えるように俺の右肩にコツンと頭を預けた。俺も、引き寄せられるように、俺を見上げている砂月の額に、唇を寄せる。