20分ほど走れば、目的地の大きな門と立派な建物が見えてきた。春風に吹かれながら、俺達は、門をくぐり抜けていく。

「砂月、着いたぞ」

「ありがとう」

砂月が、無事降りたのを確認してから、自転車を停めると俺は、暫し別れの挨拶をする。

「じゃあ、後でな」

「彰、本当に見ないんだ?」

「先に見ると、楽しみねーじゃん」 

俺は咄嗟に嘘を()く。

だって先に、砂月のその姿を見たら、俺は、砂月を、誰にも見せたくなくなるから。

「うそつき」

砂月が、見透かしたように、俺の瞳を覗き込みながら、悪戯っ子のように目を細めた。

「ちゃんと待ってるよ」

俺は、砂月の頭に触れて、梳かすように髪を撫でた。

砂月が、背伸びして、俺の首に手を回すと、耳元で甘く囁く。

「彰、大好きだよ」

「そんなん、知ってるし」

砂月は、そのまま、自分の額を俺の額にこつんと当てた。

「ねぇ、ちゃんと好きって言って」

子供が、おやつをねだる様に甘えた声。

「何回言わせんだよ」

「……何回でも聞きたいの」

あまりの近距離に、視線を泳がせる俺と違って、砂月は俺の瞳を見つめたまま、離れない。

砂月の黒い大きな瞳に、俺だけが映る。

「砂月……大好きだよ」

砂月の長い睫毛が、伏せられたのを確認してから、俺達は、唇を一つに重ねた。