「あー……あの谷口先輩」

俺は、ほとほと呆れていた。

「分かってるぞ、彰!マネージャーが可愛いかどうか知りたいんだろ!教えてやろう!」

「は?いやっ、そうじゃな」

「焦るな!彰!焦りは禁物だ!油断大敵だろう!」

右掌をこちらに突き出して、仁王立ちしている。

(めちゃくちゃだな。勘弁してくれよ、ゴリ。俺は砂月にしか興味ねーっての)

駿介も、もはや言葉も出ずに、口が半分開いている。

「さぁ、こっちに!」

 手招きされて、谷口先輩の背後から、歩み寄ってきた人物に、俺は今日一番デカい声が出た。谷口先輩のデカい図体に隠れて全然気づかなかった。

「砂月っ!!」

谷口先輩の、これでもかと鍛え上げられた暑苦しい肉体から、盛り上がった岩の様な左上腕二頭筋の後ろから、ぴょこんと顔を出した。

「えっ!砂月がマネージャー?!」

 駿介が、前のめりで、同じくデカい声で間の抜けた様な声を上げた。

「そうだ!可愛いだろう!お前達の大好きな三鈴砂月さんにマネージャーを担当してもらう」

谷口先輩がニヒヒッと笑った。 

「あ、あの……彰、その、前から愛子に誘われてて、あと谷口先輩から彰と駿介君も入るって言われて、そのさっき、入っちゃった」

 俺と谷口先輩の顔を交互に見ながら、砂月が一生懸命説明する。

「砂月可愛いでしょ?部員の士気も高まるし、あたしが前から誘ってたの」

会話に入ってきたのは、栗色のサラサラのボブに、淡いオレンジ色のルージュ。くっきりとした二重の瞳に、目尻が少しだけ上がっていて勝ち気な印象を与える。その雰囲気は綺麗な顔立ちにスタイルの良さも加わって、色っぽさと大人っぽさが入り混じる。

(あー……コイツは確か……)

「あ、愛子!」

砂月が、愛子の右腕にちょこんと掴まった。

「何とか愛子だな」

いつも砂月とよく仲良さげに喋ってる奴だ。

藤野愛子(ふじのあいこ)。陸上部のマネやってる。人の名前位覚えたら?春宮彰」

藤野愛子が、苺マークにピンクの紙パックに刺さったストローを咥えながら、そっけなく俺にいい放った。