「これは、あなたがくれた桔梗。枯れてしまうのが嫌で、押し花にして、ずっとずっと大切にしていたの。……花言葉は……永遠の愛」

カヨさんの目から、涙が溢れた。

「……ずっと…ずっと幸せでした。茂さん、あなたと一緒にいられて……」

俺は、カヨさんと茂さんの姿が、ふいにぼやけた。自分の瞳から、涙が(こぼ)れたのに気づかなかった。

茂さんが笑っていた。皺皺の顔をもっと皺皺にして、カヨさんを見つめながら、幸せそうに微笑んでいた。

言葉はない。この二人には必要ないと思った。 

ーーーー心と心が結ばれているから。茂さんは、本当に穏やかで、全てを悟ったかのような優しい笑顔だった。

「いつも側にいます。茂さん、あなたの側に。……でもここに来るのは最後です。……いつか……また、その時が……来たら会いにきますから」

目を細めたカヨさんの瞳から、涙が(あふ)れて頬を伝った。

大きな窓から、ひだまりが差し込んでいる。暖かくて、少し寂しくて、でもとても満たされていた。

ーーーー心があったかくなるの。

俺は砂月の言葉を思い出していた。そのまま、俺は、パーカーの袖で目頭を拭うと、先に席を立った。