茂さんは、砂月の姿をしたカヨさんを眺めながら、記憶を手繰り寄せようとしているように見えた。

「カヨは、いま何処ですか?どうしていますか?」

「あら、嬉しい。心配して訊ねてくださるなんて、久しぶりね。……カヨは、あなたの側にいつもいます……あなたの事が本当に大好きでした」

カヨさんは、両手で茂さんの皺皺の両手を包み込んだ。

「小さい頃からずっと……。隣の家の二つ歳上のあなたが、茂さんが、大好きでした」

茂さんの目が、ほんの僅かに揺れた様に見えた。

「……これ……見てくださる?」

カヨさんが、砂月のバックから取り出したのは小さな茶封筒だった。そして、中から取り出されたのは、俺が勝手に想像していた写真でも手紙でもなかった。

「こんなに色褪せてしまったけれど、あなたがくれたのよ。あなたのそのセーターと同じ色だった」

カヨさんが茂さんに見せたのは、乾燥した茶色の葉っぱの様なものだった。

「……あなたがプロポーズの時にくれたのよ。口下手なあなたは、これだけ私に渡して何も言わなかった。私は、口下手のあなたが、この花にどんな想いを込めたのか、すぐにわかったわ。だって生まれた時から、ずっと私達は一緒だったでしょう」

茂さんの指が、その茶色の葉っぱの様なものに触れた。