「茂さん、今日は可愛いお嬢さんとそのお兄さんが来てくれましたよ」

「……いつも、カヨがお世話に、なっております」

茂さんが、しゃがれた声で、でもしっかりと、俺たちに挨拶をした。髪は薄く、頭皮から手先まで皺だらけで、淡い紫の薄手セーターとスウェットのパンツに、リハビリ用の真っ白なシューズを履いていた。

その皺は、茂さんの生きてきた長い年月の証であり、少しだけ曲がった背中は、彼の背負ってきた人生の重みのような気がした。

「何度かご説明はしたんだけど、妹さんだと思ってらっしゃるみたいで……」 

俺は介護士の言葉に不安になってくる。

(中身はカヨさんでも、見た目は砂月だ。認知症を患っている茂さんは、砂月を妹だと思ってるのか……)

「承知致しました。少し、私達だけでお話ししても宜しいでしょうか?」

ゆったりと笑顔で話すカヨさんに、「ええ、勿論です」と介護士は、にこやかに答えると、茂さんをカヨさんの隣に座らせて、施設の奥へと戻って行った。

「あ、俺も外で待ってます」

立ち上がろうとして、テーブルに出していた俺の手に、砂月の右手が、優しく乗せられる。