俺の机からあっさりと離れ、ガシッと両手で駿介の肩を掴むと、陸上部のあれやこれやを捲し立てるように話し出した。谷口先輩が、ヒートアップして唾が飛び散るたびに、駿介が、顔を顰めた。

「少し待っててくれ!」

 突然そう言うと、谷口先輩が席を外した。

「駿介、お前が陸上部入れよ、俺より0.1も、速いんだし」

簡素な椅子の背もたれに重心をかけて、首だけ真後ろに向けた。駿介が、逆さまに見える。

「なんだ負け惜しみか?」

左手で頬杖をつきながら、駿介は、自信に溢れた顔で口元を三日月にしている。

(ムカつく……)

シャツのボタンは一つ外されて、ネクタイは、やや緩めにぶら下がっている。頬杖をつく仕草さえも、男の俺から見ても、色気がある。

「違ぇーよ」

お前が、入れば俺は、谷口先輩に纏わりつかれずに、砂月と今まで通り帰れる。駿介の砂月への心配も減る。一石二鳥ってやつだ。

「彰、《《ゴリ》》きたぞ!」

口元に人差し指を当てながら、駿介が囁いた。

ーーーーゴリ?めちゃくちゃ雑なあだ名をつけたもんだ。ゴリと名付けられた谷口先輩は鼻息荒く、こちらにむかって一直線にやってきた。

「やあ!彰!駿介!待たせたな!」

 改めてニヒヒッと笑う、大きな口と大きな鼻を見ると、あながち駿介の付けたあだ名も間違ってないように思う。

「どうも」

駿介が、待ってないけどな、と小さく呟いた。

「いやー!この度は、我が陸上競技部へ入部頂き感謝の意を表する!」

教室に響き渡るデカい声に、クラス中の奴らが、こちらに一斉に視線を向けた。

「は?」
「は?」
ほぼ同時に俺たちの声が、重なった。

「お前達が、恥ずかしがって中々入部届を出さないのは分かっていた!先程うちのマネージャーに俺が、代理で書いた入部届を出しておいた!これで正式にお前達は、陸上競技部だ!」

ガハハハッと谷口先輩が、豪快に笑った。

「駿介、これ犯罪じゃね?」

「妄想と捏造だな、それも本人は全く罪の意識なし」

人間じゃなくて、ゴリラだからか?と駿介が、真面目に俺に聞いてくる始末だ。